99.痛定思痛 ページ3
「…大丈夫ですか?」
「……あ?」
先ほど汲んだばかりの水をコップに入れ、彼に渡す。最初は怪訝そうな顔をしたけれどもすぐにその差し出されたコップを見て「すまねぇ…。」としおらしく言った。
「…飲み終わったらここに置いといてください。」
それだけ言うと待たせている花魁たちへ桶一杯に水を汲んで足を再び裏口へ進めた。
「あれ…。」
そうしてほんの10分ほどその場から離れていた隙に彼はもういなくなってしまっていたのだった。丁寧に木の幹に置かれたコップは洗われていたようだったが。
ーお礼もなしか…ー
ふうっ、とため息をつくと「何してんだ、A。はよ戻っておいで。」と声を掛けられたそこへコップを持って戻った。
*****
「あの…桂さん、その遊郭の場所って、結構な森の中ですか?」
「ん…?あぁ、どうだったか…そんな気もしなくないが…。」
「遊郭の屋根に狛犬みたいなのいませんでした?小さい、双子の。」
「おお!そうだった、そうだった!双子の狛犬なんて珍しくて。思い出したぞ!」
嬉しそうに手をたたいた桂さんと、私のはっきり思い出した記憶の綺麗な黒髪の男性が同一人物であることを悟り。
それならばきっと…
ちらり、と銀さんのほうに視線を向けると彼はもうすでに出来上がっているみたいで、「なんだよぉ〜」と赤い顔で軽く睨んできた。
「そういえばどうして橘殿はそんなことを知っているのだ?」
「あ…それがですね…」
「そういやズラぁ、そこの受付の女、覚えてるか?」
ドキリ、と心臓が鳴ったが、どうやら銀さんも桂さんもその女が私であるということにとんと気づいていないようで。「はて…そんな奴いたか?」と首を傾げられている始末だ。まぁ顔がよく見えていなかったのだからそれもそうかもしれない。
「ほら、髪のなげぇ不愛想な女だよ。なんか感じ悪かったからよぉ、俺よく覚えてるわ。」
「はて…」
はっきり思い出している私は、ほんの少しあの時の銀さんを助けなければよかった、と後悔した。しかし時間が巻き戻るわけでもないのでどうしようもない。
「俺…「それ、私。覚えてない?銀さん。あなたにコップ一杯、水をあげたでしょ?」
それでもこれ以上文句を言われてたまるか、とすかさず口を挟めば、数秒銀さんはぽかんとした顔で固まった後、さぁ、と青い顔をした。
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narumi(プロフ) - いつと楽しく読ませてもらっています(*^^*)とても続きが気になります♪応援しています! (2021年2月15日 20時) (レス) id: 5cd2b1b9c5 (このIDを非表示/違反報告)
conny(プロフ) - 続き気になる!楽しみにしてます! (2021年2月3日 15時) (レス) id: 9be2d294c2 (このIDを非表示/違反報告)
気空(プロフ) - とても素敵なお話でシリーズ一気読みしてしまいました……! 夢主と銀さんの絶妙な距離感の変化がたまらんです。こういう夢主ちゃんあまり見かけないので巡り会えて嬉しい……陰ながら応援しております! (2021年2月3日 7時) (レス) id: 413d1f6892 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:咲 | 作成日時:2021年2月1日 20時