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沖 「A姉さ…」
彼の口から私の名前が告げられた瞬間に私は一目散に走り出した。
あってはいけない。
そう脳が私に告げていた。
けれども10年も経ってしまえばあんなに早く動いていた私の体も老いが来るのだろうか。いとも簡単に10年経って大きくなった彼の走る速さにはかなわず、捕まってしまった。
だけれども、目は、顔は見れない。
沖 「A姉さんだよな…?」
肩で息をして、頷ける頭も動かしはしない。今更彼にあったって、残酷な自分の運命をひしひしと感じてしまうだけだ。
なのに、返事もせず、振り向きもしない私なのに彼は「やっぱり…。」と一言こぼした。
沖 「その飴玉。10年前もらった飴玉と一緒でぃ…。」
ポケットからいつの間が出ていた、黄色のレモン味の飴玉。確かに10年前彼にあげたものだった。もう知らないとは言えない。
黄色のレモン味の飴玉はぽとりと私のポケットから落ちた。
沖 「A姉さん…だよな…。ずっと探してたんでぃ。」
いつの間にか江戸っ子口調に染まってしまった彼なのに、どうしても10年前の面影が忘れられない私。中身はなんちゃ変わっていないのだろう。
「なんで…見つけるの…。」
小さく最後の抵抗として私は彼にそう言った。でも溢れ出る涙のせいでどうしても声が涙声になってしまう。こんなことじゃあ、最後の抵抗とも取られない。
沖 「……会いたかった…。」
ふわりと彼が私を抱きしめた。もう8歳の小さな彼ではなかった。大人になった彼の、私より背が高くなった彼の大きな手が私を包み込んだ。
黄色い飴玉はいつの間にか私の口に放り込まれていた。
甘いレモン味のはずなのになぜだか今日は少し酸っぱくて忘れられない味になった。
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作者名:咲 | 作成日時:2017年1月16日 1時