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「これ、総悟の?」
縁側でアイマスクをつけながら眠りこけていた俺に落とされた言葉はそんなくだらないものだった。
俺は起こされたことに少しばかりイライラしながらアイマスクを無造作にとり、そいつのいう、これ、とやらを見つめた。
沖 「…俺のじゃねぇ。」
「え、あれ、ごめん。てっきり総悟のかと…。」
困りと焦りを含みながら俺におどおどと謝るそいつ。
沖 「おめぇ、何年ここの女中やってんでぃ。いい加減覚えろよ。」
少し口調を強めながらそういう俺に又してもヘラヘラと笑いながら「あはは…ごめんごめん。」と謝る。
「じゃあ、邪魔したら悪いし、いくね。本当にごめん。」
沖 「うぜぇ。早く行ったらいいだろぃ。」
最後の最後まで吐き捨てるように言葉を落とす俺。「うん、ごめん。」と謝るそいつの顔なんて見たくもなかった。
思えば、いつからだろうか。俺があいつの名前を呼ばなくなったのは。あいつの顔を見れなくなったのは。
ふとある夜、そんなことを考えながら俺は布団をかぶった。少しばかりそいつのことを考えてしまう自分に「ちっ…。」と舌打ちをしながら俺は目を閉じた。
その夜はあまり寝付けが良くなかった。
山 「Aちゃん!」
真夜中だというのにこれでもかと響いた山崎の声に起きてこないやつはいなかった。もちろん俺も例外なく起きた。
がやがやとうるさくなる方に俺もゆっくりゆっくり向かいながら人溜まりになっているところを見つけた。
土 「おい、A、A!」
輪の中で土方に名前を呼ばれるそいつは青い顔をして目を固く閉じていた。
俺は慌てもせず、いつもと変わらない様子でそばにいた隊士に「救急車呼んでこい。」と命令した。
「は、はいっ!」とかけて行った隊士の背中を見つめた後俺はもう一度そいつを見つめた。
相変わらず固く目は閉ざしたままだった。
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作者名:咲 | 作成日時:2017年1月16日 1時