32.探し物は穏便に ページ34
「寝言がうるさかった、なんて考えてんじゃないでしょうねぇ?」
騒がしい声のするAの部屋の反対側から聞こえてきた声はやけに無機質で、気だるげな感じだった。
「沖田隊長…。」
「心配いりやせんぜ。こうなってるのは全て近藤さんのせいでさぁ。」
話を聞けばAが武州へ向かった後、松平がここにきて、近藤がAを武州に行かせたことがバレた、それで松平は初めは心配していたものの、Aは腕が立つとかなんとか言い出して、このいないすきに歓迎パーティーの準備でもしようということになったらしい。
しかしながら、どこでやるか、となった時に真っ先に松平はAへ向かったが、Aの部屋に全員が入るわけはなく、隣の土方の部屋の壁をぶち抜いた、というものであった。
「宴会場か食堂でやればよかったんじゃないのか?」
「とっちゃんがそんなこと聞くとは思えねぇ。」
壁を打ち抜かれた土方は殺気立って松平を始末しようとしていたところだったらしい。どうりで、誰も出てこないわけだ。
Aはもう一度ちらり、と襖を少しあけてみるが、土方の混乱具合から、もうパーティーなんてできるものではなかった。
綺麗だったAの部屋も持ってきたお菓子や壁の破片やらで見てもいられないものだった。
ーが、
「あっ!」
スパン!とAが襖を急にあけた。汚くなったその部屋の中で、何かを思い出した様に探し出した。
Aが襖を開けたことにより隊士達はピタリと動きを止めた。首を落とされそうになっていた山崎には幸運だったかもしれない。
しかし、Aはそんなことを御構い無しにずんずんと部屋の中に入ってくる。その気迫に近藤は「Aちゃん…。」と涙目になっている。
隊士達の間を縫って奥の方に置いてあった小さな戸棚を見てやっとAはホッとした様だった。棚を持ち、また隊士達の合間を縫って出てくる。
「…大事なもんかぃ?」
「いや…大したものではないんだが…」
そういったAは誰かを思い出す様にぎゅっと棚を抱きしめた。
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作者名:咲 | 作成日時:2017年5月15日 15時