29.人は見かけによる ページ31
「ここ...どこだ?」
電車を降りて早2時間。間違えることのない一本道をAは盛大に間違えていた。そういえば、いまさらながら全然人がいない。近藤たちが昔住んでいたと聞かされていたから、誰かはいるだろうと予想していたAの予想は全くの見当違いのようであった。
かさり、と音を立てて歩く自分の足音が妙に際立って聞こえるような気がしていた。一度戻ろうか、そんな風に考えて、踵を返す、と。
「あら?こんな田舎に珍しい。かわいらしい女の子。」
決して派手な着物ではないが、華やかで笑顔でにこりと微笑む女性が立っている。色素の薄い茶が身に少し赤みがかった目。肌は真っ白だ。
ー夜兎族...ではないか...ー
真っ白な肌に一瞬夜兎族かとAは疑ったが、肌が白いにしては何だが青白く、こんなに真っ青に晴れている空の下なのに傘一本もさしていない。一瞬腰刀に手を伸ばしたが、Aはすぐにやめた。なんだかばからしくさえ感じた。
「道に迷ったんだが...近藤道場を知らないか?駅からまっすぐだと聞いていたんだが...。」
「ここら辺はまっすぐって言ってもややこしい道が多いですからね。近藤道場ですか、元門下生の方なのかしら?そういえば今日は近藤道場にやけに人が集まっていたような...」
「とりあえず、案内するわね。」とAの前を歩き出した女性に「すまない。」とついていく。そういえば、なんだか見たことがあるような人だなぁとAは思う。しかし、Aは今まであってきた人ならば全員覚えている自信がある。
昔から一人が多かった自分に声をかけてくれる人なんて少なかったからだ。だからか、今はほんの少しだけ、隊士の名前を覚えるのが大変なように感じている。かろうじておぼえてはいるが。
まっすぐと歩く彼女の左手にはごっそりと大量のタバスコが今にもはち切れそうなビニール袋に窮屈に入れられていた。
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作者名:咲 | 作成日時:2017年5月15日 15時