15.強者 ページ17
「おや？遅かったね。」
「もうこないかと思ったよ。」とAの姿を見つけると、不気味に笑い続けたままそう言った。Aは首から下げ、隊服の中にしまったものをぎゅっと握った。
「どちら側につくか、決めたのかい？」
「わ、たしは……伊藤派につくことに決めた。」
Aはぎゅっと首元を握ったままそう答えた。今、土方派だと言ってしまっては、前に進めなくなる、と想定できた。伊藤がもし嘘だと見抜いたとしても多分そう答えてれば伊藤はとうしてくれるだろうとAは予想していた。
今の伊藤はすこぶる機嫌がいいからだ。
「そうか…君もついに。歓迎するよ、ようこそ、真選組へ。」
「……とりあえず、私も前に参戦しにいくよ。」
差し出された手をまた握ることなく、Aは伊藤から目を背けた。伊藤の今の顔をAは見れる気がしなかった。
不気味に嬉しそうに、闇を持つような笑顔は。
Aは少しずつ足を前に進めた。本当は一刻も早くこの車両から出てしまいたかった。吐き気がして、首元を握る手に力が入る。
「気をつけなよ、�猗爐薛瓩砲蓮�」
最後に聞こえた言葉はそれだった気がする。ああ、バレているのだ、その上で私をここに通したのだ、と悟った。
Aの前で血が飛び散った。もちろん刀を抜いたのはAだった。待ち伏せし、殺そうとしたところを一太刀だった。
「おー、これはこれは新人が。大丈夫ですか？女の子がこんなところにいて。太刀打ちできるんですか？」
まっすぐ顔をあげれば先程の伊藤と同じような顔をして笑う男たち。人一人Aの太刀で殺されたというのになんの余裕があるのか平気そうな男たち。
確かにAの強さを知るものは真選組にはまだいない。だからだろうか、今の一太刀が只者ではなかったのに気づかなかったのは。
「死にたくないなら、今すぐここから去ったほうがいいよ。それに私はあまり戦いたくない。」
苦い顔をしてそう告げたAに男たちは声を上げて笑った。「誰がお前なんかに負けるか」と。苦そうな顔からAは悲しそうな顔に変わった。
そして、1秒。
もうその車両に立っているものはAだけだった。
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作者名：咲 | 作成日時：2017年5月15日 15時
