3.阿伏兎の油断 ページ5
「俺がいいって言うまでここで待っててよ、手錠は外してあげるから。まあ、逃げてても別にいいよ。そんなに君が戦力としてほしいわけじゃない。」
神威がそう言って私に背を向けたのは1時間ほど前のことだった。今すぐにここから離れて逃げることは簡単にできる。だけど...。
きっと私が行きたい場所、知りたいものの先には鳳仙がいるはずで...ため息はついてもついても止まらなかった。鳳仙が生きている間に何としても手に入れなければならなかった。だけれども神威について行ってしまえばそれはかなわぬこと。きっと私はたった一回のチャンスを逃してしまったのだろう。
結局また冷たい地べたに座り込んだ。神威はいつ戻ってくるだろうか。そういえば彼の手にはいくつかの真新しい傷跡があった。鳳仙にも似たような傷跡がみられたし、本人たちのものではない血の匂いも二人からは強く匂ってきた。恐らく、鳳仙とやりあっていたのだろう。
「寒...」
季節はもうすぐ...何になるのだろうか。この固く閉ざされた暗い空ではそんなこと知る由もなかった。
*
「神楽ちゃん!」
叫ぶ新八の声は届かないようで神楽はくすくすと笑っていた。殺されそうになった新八を目の前にして神楽は理性が吹き飛んでいた。“誰も殺したくない”それが神楽の願いだったのに。
阿伏兎はようやく本気の戦いができるようで心から喜んでいた。春雨第7師団の中では2番目にお偉い役職についていたとしてもあのカムイのもとではそんなもの押しつけ役職でしかなかった。心労が増えるばかりのここ最近の楽しみなどなかったはずなのに。
こんなところで夜兎としての本領を発揮できるとは。阿伏兎は槍を神楽に向ける。理性のはち切れた神楽は血しぶきをあげながらその槍を受け止める。
どおおん、と音がした時にはすでに阿伏兎の本気のこぶしは神楽のおなかに収められていた。
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作者名:咲 | 作成日時:2017年5月16日 0時