33.なるべく低いもの ページ35
とさり、と小さなベットに座ったAはいそいそと風呂敷を開き出した。先程神威が聞いた通り、入っているのは服と財布と本だけ。
財布を丁寧に引き出しにしまおうとするAに近づいて、その本を手に取って見てみる。
「花図鑑?」
「あ、ああ…それね。」
「ちょっと調べたいことがあって。」と何処かに引っかかって開かないのか、引き出しをガタガタさせながらちらり、と神威を一瞥した。
半年前まではこれからどうしよう、なんていう風な顔をしていたくせに今となっては花図鑑か、と神威は興味なさそうにぽいとそれをベットに投げ捨てる。
ぽいん、と少しだけはねたその分厚い花図鑑の横にとさり、と腰掛ける。Aはようやく引き出しが開いたのはいいが、ホコリだらけなのか咳き込みながら綺麗に掃除をして財布をしまう。
神威はAが裸足なのに気がつく。確か、地球へ下ろす前は似合わないヒールを上げてはいていた筈だが。
「靴は?」
「それも急に迎えに来るから回収なんてできなかった。」
「そりゃあ、そりゃあ。」
「ご苦労様なこって。」とあぐらをかく神威を少し睨んで「着替えるから出て行って。」とドアの方を指差した。
「別に見られて恥ずかしいものなんてないだろ?」とけたけた笑った神威に相変わらずだなぁ、とため息をついてぐい、と少しはだけていた着物を脱いだ。
「本当に脱いじゃった。」なんて表情一つ変えずに言う神威は多分本当に何も思ってないのだろう。さっと着替えると、しまいはばさり、とマントを被った。神威は戦艦の中だからマントなんてしなくていいだろうに、とは思ったけれどもそれを口に出すことはなかった。
「靴はどうするの?」
「適当にどっかで買う。神威が履いてるようなのがいいな。」
「その低いの。」と神威の靴を指差したAはもうすっかり呼び捨てである。しかし、そんなこと気にするほどのことでもないので、にこりと笑うと「じゃあ、番傘と一緒に買っとくよ。」と言った。
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作者名:咲 | 作成日時:2017年5月16日 0時