22.はじめてのすし ページ24
「いやぁ!悪いなぁ!奢ってもらっちゃって!」
「…いや、私も迷惑かけたし、お互い様だよ。」
高そうなイクラを目の前にして長谷川は嬉しそうに頬を緩ませていた。Aは銀時のことを考える。間違いなく銀時だったあの姿を目の前にして逃げてしまった。
正直、同族の神楽のことなんて目に入らなかった。あの特徴的な銀髪パーマとだるそうに目尻が下がった目、あの口調ー
鳳仙を前にした時は鳳仙と戦うことと守らなければ、という使命感でいっぱいだったからかあまり銀時のことは考えなかった。
でも出会ってみて思うのだ、やっぱりーと。
ーやっぱり、忘れてるよね…ー
ちくり、といたんだその胸の傷はもう広がり過ぎていて修復不可能かもしれない。
元気のないAの様子が気になったのか長谷川は次に手を伸ばそうとしていたマグロへの手を止めた。
「…嬢ちゃん、昔銀さんと何かあったのか?」
聞きにくそうに申し訳なさそうに、長谷川は自分と目を合わさないAにそう尋ねた。Aはふっ、と自嘲的に笑った後、「なにもないよ。」とにこりと笑った。
その笑顔に聞いてはいけないことなのだな、と直感的に感じた長谷川はマグロへまた手を伸ばした。
一応これでも昔は幕府の入国管理局長だったのだ。誰よりも数多くの種類の天人のご機嫌をとって来た。
彼らの心の変化にだって敏感なのである。
ようやくイカに手をつけたAは一口食べたが、「う、」と顔をしかめた。
「イカ嫌いなのか?」
「初めて食べたから。知らなかった。」
「あげる。」とようやく口にしたイカを長谷川に渡す。「うめぇのになぁ。」と呟いた長谷川の声は聞こえなかったらしい。
だけれども長谷川にはしっかりと聞こえたのだ。
「わたしだけ、覚えてる…。」
この時はまだこの言葉の深い意味が長谷川にはわからなかった。
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作者名:咲 | 作成日時:2017年5月16日 0時