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「もうすぐお父様との食事会の時間です。そのような格好では行けませぬ」




 もう何もかもを馬鹿にしたい気分だった。面倒見の良い猿に心が苛立ってしょうがない。父上が嫌いな訳でもないし、むしろ好きだ。会いたいのは山々だが、準備そのものに腹が立つ。




「あー、お前本当に猿だよな。……今、申の刻下がりって言うらしいぞ」


 縁側からは綺麗な夕日が見えていた。



「時間が? 屋根から降りて来たからとでも言いたいんです? っていうか、猿は花様が勝手に呼んでるだけでしょ」




 どんどん髪の毛が背中からなくなっていく。もう何年も切ったことがない髪を結うのは膨大な時間を有するが、猿は何故か髪を結うのは時間がそうかからなかった。簡易な結い方であるからかもしれないが、手つきが器用なのもあるだろう。




 西洋から輸入した壁掛け時計は、午後4時を回った所だった。ここと数字の書き方が違って変な感じがしてモゾモゾする。




 もう長い物に巻かれ、大人しく過ごしていればいい。そう心が私に手招きする。けだるさが中々とれない。振り子が左右に動き、時間を刻んでいく。その光景を見ながら、髪が結い終わるのを待っていた。




 頭皮に伝わる感覚は、いつもは大男に引っ張られるほど痛いのに、猿がすると違った。同じこれだけの髪の量を扱っているのに、引っ張られても痛くないのだ。逆に心地良さまでもを感じる。




 縁側から、ほっと息をついてしまいそうな光景が飛び込んできた。魅入ってしまうような西日が射しこむ。低い空に赤が滲み、見る者全てをちっぽけに思わせる威力を放っていた。


 まだ見詰めていたかった。名残惜しいけれど、今から父上との食事会に行かなければならない。

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設定タグ:ローファンタジー , 歴史、時代小説 , 和風・東洋ファンタジー   
作品ジャンル:純文学, オリジナル作品
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征我(プロフ) - この小説の背景画像が・・・欲しい!けどやり方分からない・・・ (2017年2月17日 17時) (レス) id: a30172f436 (このIDを非表示/違反報告)
レイチェル・ハジェンズ(プロフ) - アイアン・メイデンさん» まだまだ未熟者ですが、誉めてもらえると自信がつきますね! ありがとうございます(*^^*) (2016年1月28日 22時) (レス) id: 665ef5492b (このIDを非表示/違反報告)
アイアン・メイデン(プロフ) - コメント失礼します。作者様の文章能力の高さにすごく驚きました!自分なんて、まだまだだなぁ、としみじみ感じました。情景がすごく綺麗に書かれていて、心惹かれる様に感じました! (2016年1月28日 21時) (レス) id: 599729810b (このIDを非表示/違反報告)
月影櫻詠(プロフ) - レイチェル・ハジェンズさん» そりゃないぜハジェンス (2014年12月30日 12時) (レス) id: a24476e1ca (このIDを非表示/違反報告)
レイチェル・ハジェンズ(プロフ) - 月影櫻詠さん» ゆーあーくれいじー (2014年12月29日 23時) (レス) id: fc7cab67c2 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ナンシー・ハジェンズ | 作者ホームページ:   
作成日時:2014年6月12日 22時

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