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「マジで、何なのお前」
少し気の抜けた声を出す和典。その声の調子に怒りがない事に気付いたのか、少女は和典を見て、ニコッと笑った。
「袖振り合うも他生の縁……ってね?」
今度は、キョトンとした。効き慣れない言葉に、頭が反応しない。ポカーンとした和典の表情が可笑しかったのか、意味が分かっていないことを読み取ったのか、少女はクスリと笑い、説明した。
「道を歩いていたら、通行人と袖が触れ合う___それぐらいのちょっとした関係でも、前世からの因縁だとか約束だとか、そういった縁があるかもしれない、っていうことわざ」
「ふーん」
素直に感心する。こういった何気ない所でことわざをさらりと使い、またその意味を的確に、分かりやすく説明する___和典にはできない技だ。
「お前、国語得意なの」
「うーん、一番好きでもあるし、一番成績はいいんだけど…正直、得意って程でもないかも」
和典の問いに、きちんと考え込み、また真面目に返す。
和典は、さらにこの少女が分からなくなってきた。
・
クラスにいるような、高い声を出す騒々しい奴らとは、違うタイプの女。
母とも違う女。
そんな女がいるなんて、思ってもみなかった。和典は興味を持つと同時に、話がずれていることに気付く。
「いや、そんなことが言いたいんじゃなくて、お前、なんで俺の傍にいんの」
「だから、袖振り合うも他生の縁__。そんな弱っている姿を見て声を掛けたくならない人間なんて、人としてずれていると思う」
…どちらかというと、お前の方が大方よりずれてるよ。
だが、そのずれ方に、好感を持てた。
今までの和典にとって、人間とは自分以外のその他大勢のこと。こんなふうに自分の考えを持ち、その信念を曲げない人間がいる事なんて、想像すらしなかった。ましてや、女で。
「何でこんなところでずぶ濡れになってるのかは知らないけど、一人でいるよりはましでしょ?」
フワリと笑う少女。和典は、一瞬その笑顔に見惚れたことが、自分でもにわかに信じられなかった。
・
「……お前、悩みとかってある?」
気づくと、そう言っていた。
少し首を傾げる少女。悩みかあ…と呟き、
「あるよ、いっぱい」
と答える。
「何?」
「やっぱり、成績。さっきも言ったけど、私、少し得意な国語以外は、何にもできないの」
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とらい - 親子の関係やそれについての悩みがすごく共感できました。どうしてこんな素敵なお話を書けるのだろうと尊敬します。KZのみんなでも相談できそうですが彩の兄の祐樹さんも親子関係に苦しんでそうなので、上杉くんの良い相談相手になるのではと思いながら読んでいます。 (2019年11月11日 16時) (レス) id: 6a44c88143 (このIDを非表示/違反報告)
ハナ - La merさん» うん…今更新したとこでも、ボロクソ言ってますよ。まあ上杉君がびしっと言ってしまいますのでね←少々上杉母が不憫になるほどね。まあ、更新を見ればわかる!そして、とうとう完結だぜい(*´ω`) (2017年4月5日 21時) (レス) id: d317c487ea (このIDを非表示/違反報告)
ハナ - La merさん» 結婚だぜい☆あら、申し訳ない。そう、影の薄いお父さんは、きっとかかあ天下の元でひっそりと生きてきたのよ←息子の理解者だけど、そこまで協力してくれてない…的な。まあ空気の存在だと思って下されば←買ったのよ。ささやかだけど、可愛すぎる家を!(笑) (2017年4月5日 21時) (レス) id: d317c487ea (このIDを非表示/違反報告)
La mer - 式を挙げるって……!! 挙げるって……やだアーヤ可愛い(おい)そして、アーヤを「あんな子」だってっ!? いくら上杉の親だろうと、そんな言い草は私が許さないよ。アーヤは美人で成績良くて天使で純粋で謙虚で……言うとこなしじゃないかっ!! どこが不満なんだ? (2017年2月17日 22時) (レス) id: c06852ffd8 (このIDを非表示/違反報告)
La mer - け、けけけ(動揺パニック唖然呆然)いやぁ、すっかり同棲だと思ってた私よ← そして恐らく、婚約届じゃなくて婚姻届だと思います◎ お父さんには言ってあるのね、うん……そして新居買ったのか。借りるんじゃなくて買ったのか。くぅ〜っ、金持ちめ!← (2017年2月17日 22時) (レス) id: c06852ffd8 (このIDを非表示/違反報告)
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