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和典の涙の波が穏やかになるのを待って、少女が言う。
「___きっとあなたは、お母さんが大好きなんだ。だから、変わってしまったお母さんを受け入れられなくて、そうやって苛立つしかないんだよ」
無用な気遣いのない言葉。逆に清々しく感じられて、和典は思わず顔を上げた。
「__んでお前、そんなに俺の事、分かんの」
心から思った。どうしてそんなに、自分の気持ちが分かるのか。言い当てられるのか。他人をよく観察し、その心情を理解できる。これも自分にはない才能だと思う。
少女は和典の問いに薄く微笑んだ___
やけに 寂しげな微笑だった。
「私も、あなたと同じだから」
その短い言葉に、心を揺さぶられる。今までにはない目で少女を見た。自分と同じ……どういう意味なのか、なんとなく理解できる。
少女も、苦しんだのだ。今の自分と同じように、もがき、喘ぎ、苦しんだ。酸素を求めるように、闇の中を光を探して歩き回った。だからこそ、この少女の言葉には説得力がある。それは、自分と同じ苦しみを味わった者のみが持てる、重みだった。
そして、少女は 答えを見つけたのだ。苦しみに対する、答えを。だからこそ、こうして安らいでいる。落ち着いた瞳で自分を見ているのだ。……いや_____
違う。
和典は悟った。少女の瞳は、僅かに濡れている。この少女もまだ、答えを見つけていないのだ。今の自分と同じく、答えを求めている。少女の瞳に映る光は、何もかも今の自分と同じだ。
「……じゃあ、なんで そんなに落ち着いていられるんだよ?」
正直な疑問を口にした。自分と同じなら、どうしてそんなに冷静なんだ?そして、どうして、こんなにも凛々しく立っていられるんだ?
「………」
少女は、少し口ごもった。右往左往する瞳が、答えを探しているようだ。やがて、迷いながらも口を開く。
「……あなたが、私と同じだから、かな」
「………」
今度は、和典が口ごもる番だった。当惑する和典に、少女は 必死に自分の考えを表す言葉を探している。
「私も、あなたに会うまで、ずっと泣いてたの。あんな家に帰りたくなくて…一人で、泣き続けてた。……でも、ここにいるあなたの姿を見て___
ああ、この人もなんだ
って思ったの。
自分とおんなじなんだって、直感で感じた。自分と同じような心をした人が、いるんだ…自分だけじゃないんだって思ったら、なんか楽になっちゃって」
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とらい - 親子の関係やそれについての悩みがすごく共感できました。どうしてこんな素敵なお話を書けるのだろうと尊敬します。KZのみんなでも相談できそうですが彩の兄の祐樹さんも親子関係に苦しんでそうなので、上杉くんの良い相談相手になるのではと思いながら読んでいます。 (2019年11月11日 16時) (レス) id: 6a44c88143 (このIDを非表示/違反報告)
ハナ - La merさん» うん…今更新したとこでも、ボロクソ言ってますよ。まあ上杉君がびしっと言ってしまいますのでね←少々上杉母が不憫になるほどね。まあ、更新を見ればわかる!そして、とうとう完結だぜい(*´ω`) (2017年4月5日 21時) (レス) id: d317c487ea (このIDを非表示/違反報告)
ハナ - La merさん» 結婚だぜい☆あら、申し訳ない。そう、影の薄いお父さんは、きっとかかあ天下の元でひっそりと生きてきたのよ←息子の理解者だけど、そこまで協力してくれてない…的な。まあ空気の存在だと思って下されば←買ったのよ。ささやかだけど、可愛すぎる家を!(笑) (2017年4月5日 21時) (レス) id: d317c487ea (このIDを非表示/違反報告)
La mer - 式を挙げるって……!! 挙げるって……やだアーヤ可愛い(おい)そして、アーヤを「あんな子」だってっ!? いくら上杉の親だろうと、そんな言い草は私が許さないよ。アーヤは美人で成績良くて天使で純粋で謙虚で……言うとこなしじゃないかっ!! どこが不満なんだ? (2017年2月17日 22時) (レス) id: c06852ffd8 (このIDを非表示/違反報告)
La mer - け、けけけ(動揺パニック唖然呆然)いやぁ、すっかり同棲だと思ってた私よ← そして恐らく、婚約届じゃなくて婚姻届だと思います◎ お父さんには言ってあるのね、うん……そして新居買ったのか。借りるんじゃなくて買ったのか。くぅ〜っ、金持ちめ!← (2017年2月17日 22時) (レス) id: c06852ffd8 (このIDを非表示/違反報告)
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