CRUSH × BUZZED × CRAZY ！？【utit】 (ページ49)

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腕を掴まれた状況、それ自体に問題は無いのだが、目の前の彼が少し──いやかなり──様子がおかしい気がする。頬を上気させ、口角は僅かに上がり時たま唾を飲み込む様子、音。

「針刺すからな」
「まっ…ちょっと待ってください、あの」
「うるせえな、これでも食ってろ」

先程棒の部分を持って振っていたキャンディーのビニール部分を勢いよく剥がした彼、それを私の口の中に無理矢理押し込んできた。

むぐ、と突っ込まれたキャンディーからはリンゴの風味。緑だったから青リンゴ？いや、それに気を取られてまた腕を掴まれて。

「変なとこに刺したら痛いだけだから。大人しくして」

彼が発する言葉は至って冷静なもの、状況で発せられる言葉だが。言い方が、様子がおかしい。まるで興奮しているかのような──もしかして、採血すること自体が──いや、そんな捻じれたような嗜好を抱くのか？……これ以上考えるのはよそう。

自らの身の不安を案じつつ、大人しくしていると腕に刺さる針、目が覚めるような血液が抜かれていく感覚。なんだ、医療に関わる人間のように上手くやるじゃないかと彼の顔を見たら。

うっとりとしている。
なんだか初対面の時のセンラさんみたいだな、と今は真夜中の街に繰り出している彼のことを思い出す。それこそ血液を抜かれすぎたらそのセンラさんが怒るのだろうけれど──

量はしっかり規定量だし、後の処置も完璧。彼の不審な様子を除けば完璧だった。

一緒に暮らしていく中で知りたくないことまで知ってしまった気がする──いや、知りたくないというか。何やら珍しいものを見たなという気分でもあるが。

何にしろ、彼のことを知ることであの記憶を少しでも薄れさせることができるのなら、それでもいいような気がする。夢魔という種族上、あまりああいった行為には抵抗や節操がない──というと失礼なのかもしれないけれど。

彼の方は何もなかったかのように、当然のように私に接してくるから。
調子が狂うというわけではないけれど、思い出すだけで少し恥ずかしくなってくる。だから出来るのであれば別の出来事で上書きしたいのだけれど。

…この印象で上書きするというのは、いくら何でも彼に対する印象が悪すぎやしないだろうか。

同じ研究者でかつ、同じような思考、理論的な話ができる仲間だとは思うけれど。彼は真実を追求するにあたって素直で熱烈すぎるのだ──と、私の血を持って喜ぶ彼の姿を一目見て、溜息を付いた。