CRUSH × BUZZED × CRAZY ！？【utit】 (ページ5)

今日:2 hit、昨日:4 hit、合計:44,795 hit

1-4 ページ5

「Aさん、聞きました？動物保護棟の噂」

始業前。後輩の研究員が、席に着いていた私の近くに来て話しかけてきた。少しだけ私を案じるような表情で話していることから、彼女は私が以前動物保護棟へしょっちゅう通っていた事を知っていて話しかけてきたのだろう。
気になるのはその"私を案じるような表情"。動物保護棟で、何があったのだろうか。

「いや、聞いたことないかな。...何かあったの？」
「...それがですね？先月ぐらいに一部の保護対象の子達が連れていかれちゃったみたいなんです」

『"外部の侵入者"によって。』彼女の言葉を聞いた途端、勢いよく立ち上がった。
つ、連れて行かれた！？それはどういう事なのだろうか、というかそんな重要な話、一度も耳にしていないというのに！

「えっ、その話どういう事！？」
「お、落ち着いてくださいAさん。あくまで噂ですよ、というか『一部の保護対象の動物』ですから、Aさんがよく見に行ってた子も連れて行かれたかどうかはわからないですし...」

彼女に諌められて、取り乱したことが恥ずかしくなって席に座り直す。それにしてもどういう事なのだろうか、動物保護棟に侵入者というのは。...私個人にとっては、あの子が連れ去られてしまったかもしれないという可能性がある、という事が何よりも重要なのだ、一緒に暮らす約束もしていたというのに。

というか。私が以前まで動物保護棟に足繁く通っていた事に加えて、ある特定の子に会いに行っていた事を周りに知られていたのか。なんだか頬が火照るような感覚を覚えながら、先の重要な情報を教えてくれた彼女に「ありがとう」と告げて私の席から離れるように誘導した。だって、少し恥ずかしかったから。

とにかく、昼休憩の時間になったら動物保護棟に行ってあの研究室の担当に噂の真相を確かめに行こう。自らの波立つ心を落ち着けるように、デスクに置いたマグカップを手に取った。温かいコーヒーを体内に取り込めば、何となく落ち着いたような気がする。

始業の鐘が鳴ると同時に、実験室にいる上司がこちらに向かって声を張り上げた。

「Aちゃんごめん！朝から悪いんだけど、治験薬の第一段階がもう上がってきてるから飲んでもらっていい？」

はい、と彼に返事をして立ち上がった。つい先日貧血を治すサプリを飲み終わったところなのに、という気持ちもあるが仕方がない。この条件付きで労働契約書にサインをしたのは他でもない私なのだから。