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彼らとの約束を守らなければならない。
その言葉に、唇を固く結びながら頷いた。ずっと、ずっと昔の記憶。あの人がいなくなってから、俺達がひとつの場所に集う為に必要だった約束。
否定すればそれは、組織からの離反を意味する。
「別に、今すぐどうこうしようって訳じゃないし。伝えておくだけだから。でも」
覚悟はしておいた方がいい。
その言葉は、前方へ歩き出した彼から放たれたもの。簡単に引き金を引くかのように言葉にされた割には、鉛のように重くのしかかった。
俺には、隠し事が多い。
それは目の前を行く彼も同じ筈だが。俺は大切なものをたくさん傍に置きすぎた。嘘をつくことが、隠し事をすることがとても、辛くて。
裏切りたくなかった。
いや、既にもう、裏切ってしまっているのかもしれない。
既に歩き出した彼に早足で追いつけば、既に昇り出した朝日がジリジリと肌を焼いていく。眩しくて目を閉じてしまいそうになるけれど、閉じると光の中にいる彼らを見失ってしまう気がして。
隣で歩く彼は呟くように俺に告げた。
「俺は所用でしばらくこの国から離れるから。今後の事はアイツ次第だから、手紙のひとつくらい寄越しといた方がいいよ」
「え？」とそれについて問いを投げかける前に、彼は「まふ！」と片手を挙げて今の弟子──相棒の名前を呼んだ。
それに耳と尻尾を反応させて振り向いた獣人の彼は、瞳を輝かせて彼のことを見ている。何も知らない、純粋な瞳で。
…いや、何も知らない、純粋だとは言えないか。現に先程人ひとりが死ぬところを見ているし、それを実行した片方は自らが師と仰ぐ人間だという事も理解しているだろう。
暗闇の中ではあまりにも眩しすぎる白、だと思うが。彼はあの子にどうなって欲しいのだろうか、なんて後ろ姿を見つめながら思う。
少し行った先で談笑している彼らを立ち止まって見ていたら、その中から出てくるひとつの影。
「A」
名前を呼ぶと、ふんわりと微笑んだ彼女。近寄って「無事で良かった」、と言いながら頭を撫でようとして、その手が空中でピタリ、と止まる。
その手を元あった場所へと戻せば、彼女は不思議そうな顔で。
「…どうかした？」
彼女を包む朝日が、やけに眩しく感じた。溶けていくような彼女に、俺は突き放すような言葉を投げかけてしまった。
「…俺の事、怖ないん？」
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作者名：#N/A | 作成日時：2022年3月11日 22時
