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最近、何かと夢を見る。
夢、というものは体験したことや目にしたもの等の断片的な記憶や外部刺激による情報より作られるらしいのだが、私が見る夢はどれも体験したことがないようなものばかりで─────いや、あの夢はコーヒーの淹れ方をつい最近教わったからだろう。
それにここ数日は書庫に籠りっぱなしだから、体験したことのない事を夢に見るのもおかしくないのかも。
あぁ、そういえばそういった奇想天外な出来事を夢で見たりするのは一般的な事だとここにある書物で読んだかもしれない。
持っていた本を閉じ、本棚へ戻そうと立ち上がった時。
遠くから「A〜」と私を呼ぶ声が聞こえた。坂田さんの声だ。「はい」、と短く返事をして本を素早く元あった場所へ返し、早歩きで書庫の出口へと向かう。
聞こえてきた声のボリュームからしておそらく彼は書庫の中にはいるのだろうが、私が少し奥まったところで本を読んでいたから出口までは遠い。
「A〜、どこおる〜?」という声が聞こえ、「奥にいるので入口の方に行きます」と返して高さのある本棚の間を抜けようとした時─────
「うわっ、びっくりした」
「へっ!?あっ、坂田さん、すみません...」
ぶつかってしまいそうになり、思わず飛び退く。
ぶつかってないから大丈夫やで、と笑って彼は返してくれたが、驚きでこちらの心拍数が上がっていた。
息を深く吸って落ち着いたあと、彼の方を見ると心配そうにこちらを除きこんでいた。
「Aの方がびっくりしてるやん、大丈夫?」
「だ、大丈夫です。すみません、前をしっかり見てなくて...」
「あはは、ええよホンマに。全然大丈夫やし」
へらりと笑った坂田さんは、「またなんか読んでたん?」と周りの本棚を見回しながら聞いてきた。
先程、しまった本の知識をページを捲るように思い出し、口を開く。
「はい。...最近、よく夢を見るんです」
「夢?」
「それで、夢を見る仕組みが気になって」
ふぅん、としっくりこないような顔で顎に手を当てた彼は突然、あ、と何かを思い出したように指を鳴らした。
「俺らみたいな既に亡くなってるはずの人間が夢を見るってのはちょっと不思議〜...やけど、ここについて載ってる本探せばなんかわかるかも、か」
「そういった本もあるんですか。...ただ、日中の記憶の整理をしているみたいですから夢を見るのも不思議ではないのかもしれませんよ」
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作者名:#N/A | 作成日時:2021年4月22日 21時