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「なんかまーしぃずるい〜、俺もAちゃんのことふわってさせたい〜」
「何がずるいって?」
ぽす、と柔らかい音を立てて坂田さんの頭が紙束を丸めた筒で叩かれた。
「うわビックリした、志麻くんおつかれ」
「おう、で?何がずるいん?」
坂田さんは説明し辛いのか、少し悩んだ後に「まーしぃばっかAちゃんの事喜ばせててずるい」と頬杖をつきながら話し、もごもごとドライフルーツを口にしながら不満げな顔で呟いた。
「カナッペの時も今のドライフルーツの時も、Aちゃんがふわ〜ってしてるやん?やからそれがなんかもや〜ってする」
なんだか少し、志麻さんの目が見開かれたような気がした。
彼の方も少し考えているようで、紙束を持ちながら腕を組み、考えているような動作の後、ゆっくりと口を開いた。
「あー、それは......料理人のプライドみたいなことやないの?」
「え、そう?」
「そうそう、Aは俺の料理ばっか食っとるけど、坂田からしたら俺の料理も食べてほしい〜!みたいな。多分そうやで」
「そう言われたらそんな気ぃしてきた...」
ガタン、と音を立てて志麻さんの方へ向き椅子から立ち上がって話をしていた坂田さんが、こちらの方へ勢いよく振り向いて「今度俺の料理も食べてな!めちゃくちゃ美味いの作るから!」と元気よく言うものだから、微笑ましくて考える瞬間も無く快諾した。
「じゃあ、時間も無いし仕事し始めよか。A、ここにおらんやつの事わかる?」
「はい。呼んできますね」
「ありがと。一時間ぐらいで終わるんアイツらも分かっとるからもう近くにおるはずやけど、一応頼むわ」
実際、厨房で待機していなかったスタッフの方々は殆どが厨房の近くまで戻ってきていた。
その他見当たらなかった方を自室まで迎えに行ったり、共用スペース等見回っておそらく調理担当者は全員集められただろうと思い、厨房まで急ぎ足で戻った。
厨房の付近まで戻ると既に指示をする声や食器の擦れる音などが聞こえ、既に調理が始まっていることが伺えた。
「只今戻りました...」
顔を少し覗かせて戻った報告をするも、何か自分が場違いな気がして思わず声が小さくなってしまう。
先程は何か出来ないか、その事に一生懸命になっていたがやはり私はウェイターなのである。邪魔になるのではないのか、その気持ちがどんどん膨らんでいった。その感情に負けて立ち去ろうとした時────
「Aちゃん!おかえり!」
彼は、光のような人だ。
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作者名:#N/A | 作成日時:2021年4月22日 21時