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Aちゃんとは倉庫を出て、スタッフの自室が並ぶ付近で一度別れた。
あまり彼女の前で、彼女の知らない「センラ」という名前を出して話すのもなんだか仲間外れにしているようで、彼女を抜きにして志麻くんと話す機会も欲しかったからである。
その彼と客間で新しい客人を迎える為の準備を行っているのだが、彼の方も考え込んでいるようで少し、話しかけづらかった。
「…坂田、聞きたいことあるんやろ」
「それは…うん、さっきのこと」
俺も全くわからへんのよな、と花瓶に花を挿す手を止め、視線を落としてゆっくりと彼は話を始めた。
センラの魔力のようなものを感じたのは間違いないんだそうだ。
そもそも、副料理長の立場であったセンラが魔法を使えることがおかしい────通常であれば魔法のような、特殊能力は料理長になった時点で授けられる為────のだが、確かに、それは前料理長であるうらたさんの魔力ではなく、センラのものであったそう。
その時点で正直頭がついてこない。
疑問だけが残り、何も解決する方法が見当たらない。
「一応懐中時計の方にも何か魔法がかかってないか調べたんやけど、何も魔力とか、そういう痕跡はなかった」
「そうなんや…ただ、懐中時計を隠してたってことは」
「おう、何かがあるって考え自体はおそらく間違ってへんとは思うで」
センラが書いたとされる術式自体の破壊は容易だったようで、実際、志麻くんが瞬時に壊したところを自身の目でも見ている。
ただその魔法の効果が強かった、ように感じる。
Aちゃんがセンラの懐中時計に気付くまで俺達はその場にあった懐中時計の数さえ見誤っていた。
と、すると魔法が効いていなかったAちゃんに懐中時計を持たせるのは何も間違ってはいないと、そう思う。
突然いなくなってはしまったが、センラを信用していなかった訳ではない、むしろ、今でもいつかまた会えると信じている。
そんな彼だから、誰かを傷付けるようなことはしないだろうから。
懐中時計を彼女に預けていても何か彼女に危害が及ぶことも、また彼女がセンラの懐中時計を壊してしまうことも…無いだろう。
それでも、わからないことだらけだ。
うらさんとセンラが突然いなくなってしまったことも、センラが魔法を使えたかもしれない、ということも。
何故Aちゃんはセンラの懐中時計を見つけることができたのだろうか、これも、わからない。
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作者名:#N/A | 作成日時:2021年4月22日 21時