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「センラさん、というのは…?」
あー、と坂田さんが目を泳がせて、どうしよう、といった表情を浮かべる。
志麻さんの方へ顔を向け、いいよ、とでも言うようにゆっくりと彼は頷いた。
「センラ、っていうのは…ちょっと前、いや結構前になるんかな、俺らと一緒の、スー・シェフとして働いてた奴。」
「前、ということは…今はいらっしゃらないんですか?」
「そ。急に、前料理長がいなくなったタイミングで一緒におらんくなったんや」
どうして、どうやって、などといった疑問が生まれてくるが、彼らの方は「懐中時計がどうしてここに」という事が疑問であるようだ。
2人はてっきり懐中時計も一緒に持って行ったのかと思っていたらしい。
この様子だとその…失踪した彼がいた部屋等も調べ上げた、というより部屋の掃除などもしたのだろう。
そのようにして、隅々まで失踪した彼らが何故いなくなってしまったのかを、その原因を突き止めようとしたはずだ。
それの、手掛かりになるような懐中時計がどうしてここに─────?
「これ、どこにあったん?」
「…この辺りです。懐中時計がたくさん集まっているところに」
「……あれ、この辺こんなに懐中時計あったっけ?」
え?と思わず声が漏れる。どういうことだ?最初からおびただしい量の懐中時計があるように私には見えたのだが…。
ふと、机の上を見回した際に志麻さんが言っていた言葉を思い出す。
「あれ、こんな少なかったっけ」と。確かにそう言っていた。
「…どういうことや?なんか数、増えてへん?」
「気味悪ぅ、魔法の痕跡とかある?」
ちょっと待っててな、と私へ言い、彼らは机へ近付いて周辺を調べ始めた。
しばらくして、ん?と志麻さんが何かに気付いたように声を上げ、坂田さんへ後ろへ下がるように声を掛けた。
「ここと…ここと、ここ。机の上になんか小さい魔法陣みたいなんが…」
机の上に目を向けると彼が言ったように小さな、中に何やら模様が書き込まれている複数個の円が机の上をぐるっと囲むように記されていた。
彼は指をパチン、と鳴らす。空気中に火花が散った。
と同時にパリン、と何かが壊れるような音がする。
かといって私には視覚的に何かが壊れたような、そういった事象は確認できなかった。
「視覚防御みたいな感じか?」
「…みたいな、そんな感じ、やねんけど」
彼は自らの掌を見つめて、坂田さんの方へ向き直ると震えた声で呟いた。
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作者名:#N/A | 作成日時:2021年4月22日 21時