惚れたのは、記憶が無い人でした。 (ページ1)

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私は小さい頃から頭が良かった。

親の期待にも応えることが出来たし、習い事や人間関係もある程度器用にこなせた。

でも、1つだけ問題があった。

それは、私がつめたい人間だということだ。

心が無いとよく言われた。

医者になるのにさほど支障はなかったし、植物人間や老人はさっさと…

とか、多少ひどいことを思っていたくらいだ。

そして今日やっと、研修医として大学病院に配属されることになった。

念願の医者という職業。

人の死をなんとも思わない私にとっては、何の苦痛もない仕事。

そう思っていた。

でも、思ったより悲しい仕事だった。

まだ未来ある人間の、若い命が病や事故によって失われる現場でもあった。

そんな中、ある一人のさみしそうな患者を見つけた。

患者の病名は、植物状態。

まだ26歳、1年半前から昏睡状態になり、意識回復の見込みはないという。

ただ普通に、かわいそうだった。

老人たちが寝たきりになってる中、ただ1人若い男が眠っている。

たくさんの管がくっついている細い体は、もう動かない。

病院に配属されてから初めて覚えた名前の患者。

櫻井さん、26歳。
病名：植物状態、家族ナシ、身寄りナシ、意識回復の見込みナシ。