【文スト】福沢諭吉 恋愛集【男主】

愛が一つ　発覚 ページ18

福｢…｣


明かりのついていない我が家は、とても不気味だった。


中に入っても、あの子の声も、足音も、何も聞こえない。


いつもなら、リビングで料理を作って待っているのに、あの子は居なかった。


書斎も、台所も、風呂場も、寝室も、どの部屋を回っても、あの子の姿は見えなかった。


今までの生活が、あの子の存在が、まるで嘘だったかのようだ。


私は最後の頼みをかけ、あの子の部屋に向かった。


けれど、あの子は居なかった。


その代わり、置き手紙があった。


『貴方の身に危険が及んで、俺は心臓が止まる思いでした。俺はこの家を発ちます。暫く帰りません。今まで育ててくれて、ありがとうございました』


簡潔ながら、紙にはシワがあった。


泣きながら、書いたのだろう。


ふと、部屋のゴミ箱を見てみた。


中には、沢山の丸まった紙が入っていた。


その紙は、置き手紙と同じ紙だった。


あの子は何度も何度も書き直し、この手紙を書いたのだ。


私は、泣かなかった。


何とも、思えなかった。


私は長い間、Aの部屋に居た…。

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