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吐いた煙の香りが漂い、また沈黙を呼び寄せる。
ふと見た停留所の時刻表を見るも、バスが来るまでに数分あるようだった。
話題を変えようにも、妹さんの話がまだ脳内を占めていて何を話せばいいか考える暇もない。
そんな私が取った苦肉の策は、妹さんの話をしてくれた代わりに私の話をすることぐらいだった。
「フウマさん、聞き流してくれていいので私の話もさせてください。妹さんのことを話してくれたお礼と言うか、自己満足なんですけど」
「バス来るまでに頼むな」
「はい。......私も妹さんと同じように、実の親と離れて別の家庭で暮らしてます。何の罪悪感もなく不倫する母と、私の彼氏をあっさり奪った妹。それから、なかなか帰ってこない父の4人で」
「待って。お前彼氏いたの」
フウマさんは咥えていた煙草を片手に休め、私の事をじろじろと見て茶化すように言った。
「一応いました!そんな胸ばかり見ないでくれます?知ってますよ無いって!」
「馬鹿、声デカイだろ!まあ否定はしないけど!んで?続きは」
一連の口論で少し緊張やこの先の話をする余裕が生まれ、私はどんどん話を進めた。
真面目に机に噛り付いて、志望校を目指していた中学3年生の冬のこと。
妹からの誕生日プレゼントが、どこから手に入れたか分からない私の母子手帳だったこと。
お陰で志望校は落ち、滑り止めで受けた学校が定員割れて首の皮一枚繋がったこと。
今は一人暮らしをしていること。
クラブに出入りしていること。
「それからお金のために──」
「もういい。そこまでにしろ」
フウマさんが燃え切った煙草をアスファルトに落とし、靴底で潰しながら制した。
乾いた声だった。
正確にはそう聞こえただけかもしれない。
路地裏で会った時の声に、似ている。
「まだ、話は......」
「泣くほど辛いことまで話さなくていい」
そう言われて私は慌てて頰に触れる。
気がつかなかった。
話す事に必死で、詰まる声も震える肩も、本当は開けたく無い箱であることも。
「生きていく手段は沢山あるし、どうやって生きるかって自分なりの生計を立てるのは構わないし俺が口出し出来る話じゃない。だけどな、自分の身を削ってまで頑張る必要はない」
フウマさんはそう言った。
今までの苦しみを全て理解しようとしてくれたような、強い言葉たちを聞いている最中バスが到着した。
「お前は笑ってろ」
フウマさんは立ち上がり、私を見てそう言って先にバスに乗り込んだ。
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miU(プロフ) - おかえりなさい!これからの更新楽しみにしています! (2018年4月25日 7時) (レス) id: b909dcbe9a (このIDを非表示/違反報告)
Ryrie**(プロフ) - みうさん» みうさん、ありがとうございます。これからさらに落ち着かなくなるような展開を考えていますので、是非最後までお付き合いくださいませ。 (2018年1月13日 22時) (レス) id: 3c581ac854 (このIDを非表示/違反報告)
みう - どきどきして心が落ち着きません!続きを楽しみにしています! (2018年1月7日 23時) (レス) id: b909dcbe9a (このIDを非表示/違反報告)
Ryrie**(プロフ) - カグラさん» カグラさん、ありがとうございます。まだまだ序盤ですがこれからも見てくだされば幸いです。 (2018年1月5日 22時) (レス) id: 3c581ac854 (このIDを非表示/違反報告)
カグラ(プロフ) - ずっと待ってました!この世界観が好きで更新するたび楽しく読ませてもらってます(о´∀`о)これからも待ってます! (2018年1月4日 14時) (レス) id: 55da401ce9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:紅島 | 作成日時:2017年9月20日 16時