【◇】銀木犀 6. (ページ5)

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249話ページ5

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初めて見た時から

どこか自分とは違う世界にいるような

そんな気がしていた

キラキラと輝いていてちょっとだけ特別に見える

今日、あの瞬間、あんなに遠くに感じて

本当はそんなもんだってやっぱり無理だって

わけのわからない事を思ってしまったのに

そんな瞬間さえ愛おしく思っていた

素直に尊敬するし、憧れるし、そうでありたかった

引き寄せられて、また引き寄せられて、どうしようもなくて

A｢……じゃあ、私帰るね｣

自転車のカゴに入れていたスマホが静かに震える

カバンで隠れて電話をかけてきたのが誰かなんて分からないけど

なんとなく、相手は想像できる

鳴｢明日は…ちゃんといつも通りだから｣

A｢え、｣

鳴｢だから…その…｣

初めてのことはわからないで溢れている

勉強、部活、仕事

この世は常にわからないもので溢れて、囲まれてて

それでも必ず答えがある

聞けば誰かが答えてくれるし教えてくれる

鳴｢明日もまた話そうよ｣

でも恋というものは決まった答えがない

人それぞれバラバラでこれといった答えはなく

教科書のようなものもない

自ら考え、動くことでしか答えを導き出せない

A｢うん…！｣

どれだけ仲が良くても好きという気持ちだけは

上手く伝わらない

はっきりと言葉にしなければ相手に伝わらない感情

鳴｢あのさ、Aちゃん｣

鳴｢…………送ってもいい？｣

泳いだ視線が迷いに迷って

やがて真っ直ぐと愛しい人の姿を捉える

夕焼けの光のせいか心做しか頬の色が赤い気がした

帰る場所は当然バラバラで

寮で生活している鳴は学校の敷地から出ることはない

反対に家から通っているAは学校の敷地を出て

自転車や徒歩でここまで通っている

夏は冬と違い日が沈むまでの時間が長いため

日が沈むまでに家に帰ることができるだろう

それなのに送ると言い出したのはきっと純粋な心配よりも─

A｢もしもし？｣

鳴の顔と手に持ったスマホを交互に見たAは

自分の心音を聞きながら電話をし始める

未だかつて無いほど心臓が痛く苦しい

しかし不思議なことに嫌な気持ちにはならなかった

A｢迎えに来てって話だけど…やっぱり大丈夫｣

心が踊るというのはこういうことを言うのだろう