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第304夜 ページ21

コトリ、と小さな音を立てて置かれたのは茶渋の残るありふれた家庭用のマグカップ

淹れたての熱い湯気がほわりと立ち上る


ブランド物でもなんでもないカップ。香りも薄い安物の茶葉

だけど目の前に置かれたそれは、当たり前のように僕の胸をぽかぽかとあたためるのであった




「久しぶりねA。会いに行けなくてごめんなさい」

『……僕の方こそ』


一通り満足したのかおばさんはタオルを僕に返すと、隣の椅子に腰掛け話しかけてきた



「シリウスにも困ったものだ。おかげで君に挨拶するのが遅れてしまったよ」


おじさんの言葉にふるふると首を振る

それから僕はそっとカップへと手を伸ばした






「どうだい久しぶりの紅茶は。英国人として、お茶が飲めなかったのはさぞかし辛かっただろう」

『…僕ルーツギリシャ…』

「はは、それは仮説だろう?」


軽く笑い飛ばすルーピン先生に僕もフッと口角を上げる

なんてことないやり取りさえ、なんだか懐かしく感じられた




「Aは故郷へ行ったことはあるのかい」


何の含みも感じないただの世間話、雑談、普通の話題

"ただのA"として扱われるのが嬉しくて、僕は上機嫌に頷いた




『うん……昔はよくギリシャの家に帰ってたんだ

アテネの家で寛いで、パルテノン神殿に遊びに行って、時々サントリーニの街に出かけて…』


小さい頃の思い出をつらつらと零す

懐かしむ吐息が湯気を揺らした




『オリュンポス山に登る事もあったなぁ…あの山に行くと色んな人がいるから、楽しかった』


小さい頃はギリシャに帰るたび山に登っていたっけ

両親は登山に出掛ける僕を物好きだと放ったらかしていた




「マグルの登山客かな。君が言うんだから相当愉快な人達だったんだろうね」

『うん…あの人たち、僕が行くと大抵いたから、相当山が好きなんだろうね』


魔法が使えるから両親は放任だったが、傍から見て子供が一人山に登るのはさぞかし目を引いただろう


会う度構ってくれたお兄さんお姉さん、それからいつか女性に刺されそうな浮気性なお爺さん

みんな元気だといい




「A」

『…ん』


おじさんに呼ばれる

愉快な登山客の事を思い出していたらいつの間にか眠気が襲ってきて船を漕いだ




「……故郷に帰りたいかい?」

『…故郷に…』

「…家に___ご両親に会いたいかい?」




父様、母様…


僕を愛し、壊し、置いていった人達






『……』


おじさんの問いに答えることなく、口を閉ざした

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作品ジャンル:ファンタジー
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雪乃 - 面白すぎて一気に読んでしまいました…!!話の展開にとてもワクワクしてます!!更新応援してます! (2021年12月17日 0時) (レス) id: c79f44231f (このIDを非表示/違反報告)
ニノココ(プロフ) - アロンさん» ありがとうございます…(T_T) 更新頑張ります!! (2021年12月15日 4時) (レス) id: c7287fd7d7 (このIDを非表示/違反報告)
ニノココ(プロフ) - 卵のたまごさん» ありがとおぉおおおぉおお!!!! (2021年12月15日 4時) (レス) id: c7287fd7d7 (このIDを非表示/違反報告)
アロン(プロフ) - めちゃくちゃおもしろいです!!更新待ってます!頑張ってください! (2021年12月12日 19時) (レス) id: ed0e3e5242 (このIDを非表示/違反報告)
卵のたまご(プロフ) - 好きだぁぁぁぁぁぁぁ…!!! (2021年12月7日 22時) (レス) id: d5144cc3f8 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ニノココ | 作成日時:2021年9月12日 16時

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