名探偵の婚約者【江戸川乱歩】

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「お疲れ様でーす。見張り、変わりますよ」


がちゃん、と音を立てて開いた扉。男の人は黙ったまま部屋を出ていく。それとすれ違いで部屋に入ってきた中性的な顔立ちの人が私の目の前まできて、にっこりと笑う。相変わらず、女性的な顔立ちだなと思った。


「江川芳…」
「いつの時点で僕の正体に気づいたんですか? 」
「さっき」


ベレー帽と乱歩のようなマントをとった江川ちゃんはすらりとしたビジネススーツを着ていた。腰に携えているナイフからして安全な役職にはついてないだろう。まぁポートマフィアなんて安全なわけないしな。とぼんやり


「…僕の正体に気づいちゃいました? 」
「ポートマフィアの奴ってことくらいだよ。それと、首領に暗殺の腕を買われて買収されたってことくらいかな」


首領の元で給仕として働いていた時に一度だけ見たことがあった。すごく中性的な顔立ちをしていて、美しいのに瞳だけはとても醜くて。生きる意味がない瞳を織田作と出会う前の太宰幹部と重ねて勝手な感情移入をしていた。


「私になんのようかしら? 」
「あなたはポートマフィアを抜け出しました。裏切り者の払拭。僕はそれを手伝うためにあなたを捕縛したんです」
「ってことは殺されるのかしら、私」


そう言うと江川芳はまっさかぁ！と大声を出して笑い始めた。殺される訳では無い、ひとまずその事実に胸をなでおろす。死なない。上手くいけば、抜け出せる。


「あなたに与えられた選択肢はポートマフィアに戻るか、 ”僕のモノになること” です」

「ちなみに選ばなかった場合は殺します」


言葉が酸化した。やばい、これ。
こいつの目 本気だ。

そう確信すると、私は意識的に暴れだした。


「やだやだやだどっちもやだ!! 帰してっ、帰してよ!! 乱歩…っ、乱歩!! 」
「駄目ですよ。江戸川乱歩は来ないんですから大人しくしていてください」


「僕はあなたを傷つけたくないんですよ」

「僕の女神(ヴィーナス)」

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