私たちの主従関係【太宰治】

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「治さん。お待たせしました」


少し遅くなりすぎただろうか。頬を膨らまして長椅子の上で膝を抱えている治さんの機嫌をなおす為、治さんの好きな蟹缶を渡した。

治さんは蟹缶を一瞥したけれど、蟹缶では機嫌がなおらないらしく、そっぽ向く。そんな姿が可愛くて、きゅん。とときめいてしまったが今はそれどころじゃない。


「治さん...、遅くなってすみません。」


私がそう云っても、治さんは目を背けて拗ねたまま。今回の拗ね治さんは頑固者だなぁ。そう思うと、ふっと笑みがもれる。


「治さん。」


名前を呼ぶ。治さんは未だに私を見てくれない。私は治さんの手をとり、手の甲に口付けた。


「...遅い、莫迦。」


治さんは未だ私を見ない。だけれど、言葉を発してくれた。それが嬉しいから、治さんがいつもやるように、指を絡める。


「ごめんなさい。...治さんの話をしていたら、遅くなって」


観念したかのように治さんが顔を上げる。その顔は真っ赤で、でも嬉しそうで。
私の肩に顔を埋めるまでの一連の動作が一瞬。

気がつけば、私の嗅覚は治さんで満たされていた。


「何それ...。反則級に可愛いんだけど」

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