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気づいたら、目の前で血だらけになって倒れている母親と、私の手に握られている真っ赤な包丁。
その時、危機を感じて逃げたのか、その場にはいなかった父親。
自分のやった事が記憶になかった。
ひたすら、斗逢を守るのに必死だった。
「斗逢?ねぇ、おきて」
肩を軽く揺らしてみても返事はなく、とたんに悪寒がした。
「ねぇ、まだダメだよ。死んじゃだめ。まだ、A、幸せになってない」
ポタっポタっと床に落ちていく目から出た水滴。
「ねぇ、斗逢!おきてよ!」
バンっと扉を開く音にビクっと反応する。
二、三人の男の人が銃を構えて入ってきた。
「…?子供?」
警察…斗逢のなりたいお仕事…。みんなを守ってくれる人。
「ぼくね、おっきくなったら、けいさつかんになりたい!だって、おねぇちゃんまもれるから!」
ニコニコ笑って言っていた斗逢を思い出し、胸が余計に苦しくなった。
「斗逢を…斗逢を、たすけてください!」
私なりの助けの求め方。
斗逢を助けるためなら、怖いものなんて知らない。
すぐにその人達は救急車を呼んでくれて、斗逢と母親を運んだ。
そして、警察の人に全て聞かれた。
斗逢の事、両親の事、…自分の事。正直に答えた。
もちろん、私が殺った事も。
私は、正当防衛だと判断され、見逃してもらえた。
その後は、病院にまで送ってくれた。
「…弟さんは、失血やストレスなどで目を覚ますのは難しい状態ね」
「…死んでない?」
「死んでないよ。…時間の問題だけど…」
ベッドの上で眠っている、斗逢の頭を撫でる。
「…ずいぶんと優しいお姉ちゃんだね」
そう困ったように笑う、看護士さんのお姉さん。
「…ちがう…斗逢の、こと…守れなかった。Aは、やさしくない…」
「そんな事ないわ」
いつの間にかつくっていた、頬の傷を「手当てするね」と、ガーゼなどを持ってきて手際よく作業をしていた。
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作者名:月霜澪亜 | 作成日時:2022年12月7日 18時