永久の病 ページ6
僕は、"普通"とやらに嫌われているらしい。
あの後の事は、よく覚えていない。気付けば屋敷ではなさそうな所のベッドに寝かされていて、傍でクロ君が眠っていた。探知した雰囲気からして、長らく寝ていなかったのだろう。
しばらく待ってみると、クロ君が瞼を開いた感じがした。そして僕が目を覚ましているのを見た途端、バッと身を起こして大丈夫なのかと聞いてきた。
大丈夫だよ……そう答えようとした。
なのに、声が出なかった。
不思議に思って、喉を押さえようとした。
でも、腕が上がらなかった。
怖くなって、ベッドから降りようとした。
でも、足はぴくりとも動かなかった。
何で、どうして。不思議とそんな事は思わなかった。自分で理解していたのだ。あの時の衝撃の所為だと。
クロ君が泣いている気がする。どうしたんだろう。何処か痛いのかい？ そう訊きたいけど、訊く事は出来ない。だって、話せないのだから。
クロ君の気配が遠ざかって、少ししてから別の人を連れて戻ってきた。以前からお世話になっている医師の様だ。
医師の話では、僕が受けたあの衝撃は魔法使いがクリーチャーに向けて放った魔法だったらしい。クリーチャーが避けた魔法が、運悪く倒れていた僕にぶつかったのだと。頭にぶつかった球状の魔法は四散して、その一部が喉に当たった。頭と喉に大きなダメージを受け、僕は意識を失っていたらしい。あの事件からもう2週間経っていると聞いて、随分驚いた。
驚かないで聞いて欲しい……そう言って、医師は僕の不調の原因を告げた。
「脳の手足の運動を司る部分にダメージが大きく、四肢が麻痺している」
「喉に魔法が当たった際声帯が傷付き、発声する事が出来なくなっている」
ああ、矢張りそうだったか。
四肢の麻痺と発声不可。新しく障害が増えただけだ。気にする事はない。
なのに、どうして？
どうして、僕は泣いているんだい？
痛くも辛くもないのに、何故？
……ああ、そうか。
僕は──
僕を侵すのは、『絶望』という名の、永久の病。
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