陰な彼女 ページ38
「キヨ君、膝、貸してください」
「1回500円な」
いくらキヨ君の膝でも500円はさすがに高すぎます。もう少し金額設定を低くすると、私がお金を払ってでも借りに来かねない、という私の行動パターンと財布事情を知っているキヨ君は「500円」という絶妙な金額を提示しました。
私を思い止まらせる、冗談と受けとるには現実的すぎる値段設定としか言いようがありません。完敗です。
「お金を要求するなんてケチですよ。嫌いになりそうです」
「お前さぁ。俺を嫌いになったら友達いねぇじゃん」
「大丈夫です。明日になったら忘れて友達に戻るので」
「Aって本当に意味わかんねぇ」
キヨ君の言う通り、私は休み時間も教室の端でひとりで一昔前の小説を読みふける文学少女です。一緒にトイレに言ったり、恋ばなうつつを抜かすクラスメイトとはどうも相容れません。みなさんとても優しいのでいじめられることはないですが、もちろんペアワークは私を除いて奇数人数の女子の中で出た余りの方とですし、存在は空気と同じです。
唯一の友達、キヨ君との出会いは埃の積もった倉庫の中でした。何故か半地下にあるわが校の図書室は中々の年代物が揃っています。入学動機は半分くらいこれです。
ただ困ったことに、生徒が読もうともしない本の多くは裏の倉庫にしまわれているのです。
委員でもない私が倉庫の本を借りるには図書委員の方に話しかける必要がありました。
そして、図書委員が座っているはずの席に何故かヤンキーが座っていました。ブックカバーでうまく隠していますが、漫画特有の白黒が見えてしまっています。別に本を借りるのは明日でもいいんです。体が勝手に逃げる準備を始めます。
──目が合ってしまいました。
「お前さっきからなにしてんの。俺になんか用?」
「っひぇ。……図書委員の方はどこですか?」
絞り出した私にとっての長文は、掠れていて声にした当人でも何を言ったかわかりません。聞く人を間違えました。普段人と関わってこなかった罰でしょうか。
ヤンキーは私を値踏みするかのように目を細め見てきます。正直に言います。怖すぎて足が震えてきました。
「俺が図書委員だけど」
「……お願いだから嘘だって言ってくださいよぉ」
「初対面からすっげぇ失礼。どうせ倉庫の本だろ?」
ヤンキーは私の返事を聞く前に倉庫の方へスタスタ歩いて行ってしまいました。チビの歩幅を気遣うこともないハイスピードで、鍵を回して扉を開けて中に入ってしまいました。
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作者名:涙(るい) | 作成日時:2021年2月1日 7時