蒼い彼女 ページ4
蒼い彼女
「Aはここに何年いるの？」
今は廃校になっている中学校の美術室前の鏡に彼女は居た。
出会ったのはちょうど1年くらい前。開いてた窓からボールを俺がじゃん負けで探している最中に話しかけられた。
あのときはビックリした。なんせ、鏡に人が映っているのに後ろには誰も居ないのだ。正直に言えば漏らすところだった。
「5年」
「俺と同い年じゃん。でも、Aって名前の女子聞いたことねぇ」
ここまで儚くて綺麗な少女、どこかで噂になるはずだ。ましてや、見たことがあったら忘れることは絶対にない。
「登校初日にトラックに引かれて死んじゃったの。学校に残ればみんなとアオハルできると思ってたんだけど」
廃校になっちゃった、と悲しそうにAは笑う。俺の次の代で隣の中学と合併されてこっちの校舎は廃校になった。それなら、人の青春も見れずに壁を見つめていたってことになる。成仏出来ないのも納得だ。
「成仏させてあげようか？転生すればやり直せるだろ」
青春という言葉を聞いただけで、目を輝かすこいつ。幸せそうな中学生と目の前の壁をただ見続けたAには、憧れそのものなんだろう。それに、あと数ヵ月でこの校舎は解体される。俺に出来ることはしてあげたい。
「う〜ん。君と出来そうな青春か」
「あっ、君もさ、、、ｺｯﾁﾆｵｲﾃﾞ?」
鏡からAの身体がヌルッとこちら側に出てくる。手をぎゅっと掴まれて離せない。Aと触れあってるんだと、夢のように感じているうちに鏡の縁まで引き摺られる。抵抗すればいいのに俺は逆らおうとする素振りさえしなかった。悪霊になったAの目に涙が滲んでいるのを見てしまったからだ。
その刹那、俺の脳裏に浮かんだのはAと俺の等身大の青春。もう後には退けなかった。
「今楽にしてやっから。泣き止め、笑えよ」
童話の王子さまのようにAを引き寄せ、初々しい恋人のようにキスをする。こんなにも生々しいのに、幽霊の彼女の唇はひんやりする。目から溢れる涙を拭ってやりながら、消え行く彼女の頬にもうひとつキスを落とす。
「キヨくん、ありがとね」
気づいたら彼女はいなくて、俺だけが鏡に映っていた。
『人のファーストキス奪って消えて。いつまでも俺の中に居座るのずりぃわ。君を忘れたいなんて、嘘でも言えないから早く君が俺の前に現れて』
─────────────────────
#firstKiss #鏡の中の彼女 #君に会うには…？
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 50人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：涙(るい) | 作成日時：2021年2月1日 7時
