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【朝露で輝く薔薇】
入学してから三ヶ月もの月日が流れた。気付けばクリスマス休暇も目前で、両親に会えるその日が待ち遠しくて仕方がなかった。
『トムは帰らないの?』
「あぁ、帰る必要なんてないからね」
『そうなの……。じゃあ、明日は一緒にホグワーツ特急には乗れないのね。残念だわ』
「僕もだよ」
寂しげに眉を下げて微笑むトムの姿に、Aも思わず悲しそうな表情を浮かべる。もう明日からしばらくは会えないのか、と。
そしてふと思い出す。そういえば彼に渡す物があったのだ。慌ててローブのポケットを探り、綺麗に包装された縦長の箱を取り出す。
『はい、どうぞ』
「……何かな、これ」
『誕生日プレゼント。ちゃんと直接渡したくて。少し早いけれど、誕生日おめでとう』
トムの顔は困惑と驚きに満ちている。まるで貰ったことのない物を与えられ、どう返事をすれば分からないかのように戸惑っている。
しばらくしてから、箱にかけてあるリボンを解く。そこに入っていたのは赤い宝石がはめこまれた蛇の形をしたブローチだった。
それを見たままトムは何の反応も示さなかった。途端にAは不安になる。一生懸命に選んだのだが、気に入らなかったのだろうか。
「……っ、」
『え』
どん、と軽い衝撃が身体に走る。暖かい人肌の温もり、背中に回された腕、自分より一回り大きな存在。視界の端に黒髪が見える。
抱き付かれた。そう理解するのは遅くはなかった。苦しいくらいに強く抱き締められ、今度はAが困惑と驚き、戸惑いに満ちた。
『と、む……?』
「今、こっち見るなよ」
震える声。嬉しくて堪らないのに、どうしても泣きたくなったような。そんな声が彼から発せられる。よく思えば肩が濡れている気がする。
「覚えてるなんて思わなかった」
『トムが私の誕生日を聞いてきた時に教えてくれたんでしょう。それに忘れるわけがないわ。私の初めての友人の誕生日を』
「うん、うん……」
『汽車の中でトムと出会えたのは奇跡だと思うの。私と出会ってくれてありがとう』
「……あり、がとう。僕こそ君に出会えて良かった。誕生日プレゼントなんてもらったことがなくて、そのなんていうか」
『……うん』
きっとこの少年には生まれたことを祝ってくれる人間などいなかったのだ。それを悟ったAは静かに背中に腕を回し、抱き締める。
小さなすすり泣く声に聞こえないフリをして。
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あまね(プロフ) - ヴァンパイア⁉️めちゃ好きです🫶 (9月9日 21時) (レス) @page32 id: 2b125e9969 (このIDを非表示/違反報告)
くりきんとん - 主人公の秘密だったりリドルの独占欲がじわじわと感じられる描写など、すごく面白いです!文章も細かく書かれているため内容が薄すぎなくてスラスラ読みやすかったです!更新大変かと思いますが頑張ってください!続き楽しみにしています! (2022年3月20日 15時) (レス) id: aa56424b90 (このIDを非表示/違反報告)
mikitty(プロフ) - つづきが気になります! (2022年3月20日 0時) (レス) @page28 id: 75972ecbb8 (このIDを非表示/違反報告)
レネット(プロフ) - トム・リドル大好きなんです!更新楽しみにしてます!頑張ってください! (2021年6月12日 1時) (レス) id: ec8ec8961f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:セニオリス | 作成日時:2021年6月5日 17時