愛 9 ページ9
「うん…刀装が剥がれるだけで本当は怖くて堪らないの。信じてても私に出来るのはそれくらい」
小さく震えるその肩を優しく抱き寄せる。
「主、俺達はきみの刀だから大丈夫だ。ゆっくりで良いから頑張っていこう」
十分俺達は強い。
まだ主と一年も過ごしていないが俺達が強いのは彼女の努力の賜物だ。
「治るって分かっててもね、一度清光が重傷になった時本当に怖かった」
人の形をしてるんだ怖くない筈はない。
「嗚呼、慣れろとは言わない」
「ありがと、鶴丸」
薄く瞳に涙を溜めて彼女は微笑んだ。
「きみは神隠しを警戒してるか？」
俺の言葉に彼女はキョトンっとコチラを見た。
「ううん、したいならすれば良いと思うし貴方達が願うなら拒まないよ」
コクリと喉が鳴る。
正直俺の神域に連れて行けるなら連れて行きたい。
「きみは良いのか？」
「そうなる事も覚悟して此処に来たからね」
彼女の瞳には嘘なんてなかった。
「きみが誰かに連れて行かれるくらいなら俺が連れて行こう」
例え誰が相手だとしても彼女を譲る気なんてないからな。
「そう、お願いしよっかな」
ふっと儚く彼女は微笑む。
触れれば温かい、なのに消えてしまいそうだと一瞬恐ろしくなった。
「きみは何で審神者になったんだ？」
「言ってなかったっけ？」
「嗚呼」
彼女は何も言わずに俺達を蘇らせた。
彼女について知ってる事なんて声と姿だけだ。
彼女がコクリと音を立てて酒を飲む。
「勝手に連れて来られたの。適性があるからって理由でね」
無理矢理連れて来られたって事か。
もしかすると彼女は此処に来たくなかったのかも知れない。
だから彼女はこんなに色々な事を受け入れて何でも許せるのか？
「あ、でも全然後悔してないよ。皆がいるし私の帰る家はここしかないもん」
後悔じゃない、それは受け入れたって言うんだ。
「きみ、現世に残してきた奴とかいないのか？」
「いないよ」
不思議な瞳だな、吸い込まれそうな黒い闇色の瞳だ。
「俺が家族になってやろう！」
「え？」
大きな声にびっくりして彼女がこちらを振り向く。
「駄目かい？」
「皆家族だもん、嬉しいよ」
家族か、それは俺が言った意味とは違うな。
彼女が嬉しそうに微笑むから俺は結局違うなんて言えなかった。
「鶴丸、貴方が顔の布を取ったから初めて貴方達に向き合えた気がするんだ」
「きみはいつだって向き合ってきただろう？」
いつも俺達の事を考えてくれていた。
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作者名：彼岸花 | 作成日時：2019年4月21日 15時
