愛 24 ページ24
現に彼女の首元には噛みあとがくっきりと入っている。
「主、お身体は大丈夫ですか？」
一期一振の答えにコクリと彼女は頷く。
大丈夫なんて冗談でも言えない程にキツイだろうがな。
「主！大丈夫？お粥作って来たよ！」
光坊がドタバタと音を立てながら入って来る。
主は光坊を見てコテンっと首を傾げた。
「光忠、お粥ありがと」
彼女は粥を受け取りスプーンですくって口へと入れた。
「主殿…？」
「きみ、それ、粥じゃないぞ」
彼女のスプーンがすくったのは粥と一緒に持ってこられた水だ。
「あれ？本当だ」
「主、やっぱり寝た方が良いよ」
「うん、お粥食べたら一回寝るね」
「きみ、俺が食べさせてやろう」
今のままじゃ不安だ。
「良いの？ありがと」
本当に素直だな。
躊躇なく彼女は俺から運ばれる粥に口をつける。
「主、美味しいかな？」
「うん」
コクンと彼女が嚥下する様子が何故だが艶かしく思えた。
「一期、これ明日の仕事内容だから清光に渡してくれる？」
のそのそと彼女は起き上がり机に散乱している書類を一期一振へと渡した。
「ありがとうございます」
「うん、清光に明日指揮をとって貰って鶴丸は明日一緒に現世に行って貰うからね」
もぐもぐと彼女が再び咀嚼した。
光坊は何をニヤニヤしてるんだ？
「鶴さん、主が食べたら食器返しに来てね」
「嗚呼、分かった」
光坊がそそくさと出て行った。
「鶴、そう言えば私鶴を見た事ないな」
ジッと彼女がこちらを吟味した。
「そうかい、なら明日見に行くと良い」
鶴が見たいなら俺だけを見とけば良い。
他のものに興味を惹かれるくらいなら俺を通して見ると良い。
「帰るの遅くなっちゃうからやめとく」
せっかく彼女は望みを言ったのに簡単に諦めるのか。
「主、大丈夫ですよ」
「一期、良いの。何となく気になっただけだから」
ゆるりと彼女は首を振った。
彼女は願いがないのだろうか？
「主、熱がまた上がったのでは？」
額へと当てられた一期一振の手に彼女は嬉しそうに顔を緩ませた。
先程までは俺に見せていた笑顔で彼女は微笑んでいる。
ハッキリとした胸の痛みに自分では抑えが効かなかった。
「一期の手も冷たい」
「きみ、食事がまだ終わってないぜ」
グイッと彼女をこちらに戻し口へと粥を運ぶ。
彼女は皆の主だ、直ぐに違うものを見てしまう。
「主、昨日から気になっていたのですが…」
「なぁに？」
もぐもぐと咀嚼している小さな口から声を出す。
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作者名：彼岸花 | 作成日時：2019年4月21日 15時
