トリップしたいなんて言ってない！ 中

漫画の世界　70 ページ20

「…ジサツですか？」

この事件は山奥でジサツした事件だった。

遺体は登山するとは思えない格好と靴だ。

「えぇ、何でも遺書まで出てきたらしいです」

良く良く見ればその遺体の持ち物は携帯と化粧品と財布だけ、ジサツする人が財布なんて持って来るか？

それよりも携帯を持って行くか？なら何故山奥にしたんだ？それに服装は小綺麗だ。

首元には苦しんだ形跡もないが睡眠薬を飲んだらしく財布のレシートはあり、死亡時刻前にお茶を頼んでいたレシートが入っている。

「それと多額の借金を抱えてたらしいですよ」

「借金を苦にジサツですか、恋人は？」

「居るようです、何でもお金を貢がせてたみたいですよ」

なるほど、一見悲嘆劇に見える。

「他殺でしょうか、恋人なら保険金欲しさにでも？彼女身寄りもないようですし」

「ですが恋人とジサツ直前に会って別れ話をしたと言ってましたよ」

別れ話、痴情のもつれは怖いなぁ。

「ジサツする人が貢いでた人に別れを切り出しますかね？」

死ぬ程苦だったならむしろ別れないだろ、そちらの方が相手も苦しむからな。

恋人が怒って殺したという方がスッキリする。

「しませんね、アリバイは確かにないんですよ」

「まぁ、恋人が殺してたとすれば直ぐにまた起こりますよ」

「どう言う事ですか？」

風見さんは怪訝な表情をした。

「この手の人間はDV、もしくは金銭がないと駄目な人間ですから」

「なるほど」

行ってしまおうか？近付いて捜査をしても良いかも知れない。

「…行きませんよ」

「何故です？」

「証拠がありませんし、貴女を危険に晒せません」

仕方なく他の資料に目を通す。

「あ、これ…」

「聞きませんよ、貴女に何かあったら降谷さんに何と言われるか…」

聞いてくれないか、興味をそそるものが多いのに。

「資料の山ですね」

「そうですね、実は徹夜してるんですよ」

濃く風見さんの目元には隈が浮かんでいた。

「私がして置きましょうか？」

「いえ、大丈夫ですよ」

休む気はないと言う事か、倒れそうなのになぁ。

「この資料を分けて零さんに持って行くんでしょう？報告書は書けませんが分けるくらいなら私もしますし、15分寝たらどうですか？」

「ですが、俺の仕事なので」

「寝た方が良いですよ。其処の漢字間違ってます」

サラサラと書いている報告書は誤字があった。

罰が悪そうに風見さんが私の方を見た。

「すみません、では少しだけ」

渋々と仮眠室の方へと風見さんが消えて行った。

漫画の世界　71→←漫画の世界　69

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す