彼 80 ページ30
「え…や、やだ！やめっ…ゴホッ…ケホッ…」
抱きしめられる手を振り払おうとするが力が強く抵抗出来ない。
「赤井さん、お姉さんから離れて！」
やんわりと身体が離れて行く。
「どうゆう事だ？ボウヤ」
「お姉さん記憶喪失で記憶がないんだよ」
「記憶喪失？」
コクリと頷くと赤井と呼ばれた男は言葉を失った。
「取り敢えず、安室さんを呼んでみるね！」
安室さん？知らない人間が多いらしい。
少年が電話をすると電話の主は声を荒げていた。
どうやら私の周りには彼等が居ないようだ。
5人共何処に居るのだろう？
「その、すまなかった、急に抱きついて」
赤井と呼ばれた男が頭を垂れた。
私はふるふると首を降る。
「私、こそ…思い出せな、くて…ごめんなさい」
「君は何処に居たんだ？その手錠の痕はなんだ？」
私の手首に残る痕を彼の手が優しく触れた。
彼の瞳には怒りが燃えている。
見つめ返し私は何も言わずに微笑んだ。
「お姉さん、お水飲める？」
少年から問われコクリと頷くと彼から飲料水を渡された。
「んっ、コクっ…」
喉が痛くてうまく飲めない。
口がうまく開かずに溢れてしまう。
「目の毒だな…ドレスはどうしたんだ？」
赤井さんの顔が赤い。
目の毒？ドレスは…どうしてこのドレスを着ているんだろう？
そう思っていると懐かしい声が響いた。
「百合ー！」
「れ、い…！」
安室さんって零の事だったのか。
私は勢いをつけて彼の胸に飛び込んだ。
「うわっ！何だ？この痕…」
私の手首を見てハッとしたのか零の表情が消えた。
「安室さんと知り合いだったの？」
コクリと頷けば赤井さんは何処か不機嫌だった。
「貴女は何処で何をしていたんだ？」
何も答えずに私は首を降った。
「何で教えないんだッ！」
「良い、の…。ねぇ、研二、は…？」
その問いに零は顔を歪めた。
何でそんな顔をするの？ねぇ、何があったの？
「零？」
「貴女は何時までの記憶が？」
「貴方達と、学校に行ってる記憶だけ…」
「萩原はもう居ない。他の奴等も…」
「え…？う、そだよね…？」
そんな筈ない、確かに危険な仕事の身を置くと言っていたがそんな筈はないんだ。
だって、学校に私は通ってて、其処で皆に会っているんだもの。
何故か自分だけ未来に残されたようだ。
「嘘じゃない」
無情にも平坦な声と彼の表情が物語っていた。
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作者名：彼岸花 | 作成日時：2018年10月3日 19時
