彼 64 ページ14
その首には青いネックレスがかかっている。
軽やかな足取りでチョコレートを観る顔は幼い。
店の甘い香りが彼女をより一層楽しませる。
その女性がチョコレートを決めたのかパッと顔を上げた。
「え？…」
俺の顔を見た女性、いや百合は一瞬で表情を凍らせた。
「ホー、何だその顔は」
そんなに会いたくないのか？
仮にも恋人である自分を見てそんな顔をされたら嫌でも傷つく。
ダメ元で来た筈のチョコレート屋に彼女は来店した。
灯台下暗しというやつか。
彼女は顔を真っ青にさせてカゴを落とす。
「何で…此処に？赤井さんこんな所来ないでしょう…」
「ふん、君を探しに来たんだ。まさか此処で会うとは思わなかったがな」
ジリジリと後退する彼女の手を握り店内から連れ出す。
「あ、赤井さん、放して！」
「俺を避けたんだ、理由くらいあるんだろ？」
「ないですよ！仕事が忙しかったんです！」
まだ仕事だと嘘をつくのか。
降谷君にも会っていないのに仕事などしている筈がない。
組織に行ったのだろうが動き一つなかったのだから仕事はそちらでもしてないだろう。
降谷君はまだ彼女を探しているだろう。
まぁ、彼に彼女が此処に居たことなんて教えてやらんがな。
降谷君じゃなく俺の前に最初に来てくれて良かった。
だが、男にノコノコとついて行ったのだろう。
それよりも彼女の首に光るネックレスが忌々しかった。
俺のプレゼントじゃない物なんてつける必要はない。
風見という男から貰ったイヤリングだって隠してある。
久し振りの彼女の体温に少しだけ安心した。
「百合」
グイッと彼女の顎を掴む。
会わなかったら彼女の体温がいつの間にか恋しくなったのだ。
降谷君のキスなんて忘れてしまえば良い。
彼女が覚えているのは俺だけで良いんだ。
「ヤッ！」
キスをしようとしていた所を彼女によって跳ね除けられる。
降谷君にキスされたままでは嫌なのだが、彼女はキスをしようとしても頑なに拒んだ。
「百合ッ！？」
それどころか彼女は走り去ったのだ。
直ぐに追いかけるが追いつけない。
俺からのキスも拒むのか、何故駄目なんだ？
2週間も距離を置かれてキスも拒まれて、彼女の体温が残る手が忌々しい。
仕方なく俺は彼女の家へと向かう。
待ち伏せするしかないだろう。
そろそろ彼女は自分の家へと戻らないといけないからな。
そうして彼女が帰って来たのは深夜だった。
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作者名：彼岸花 | 作成日時：2018年10月3日 19時
