第十六話 ページ18
*
刃物を向けられてから彼らが去っていくまで。
それは流れる水のようにあっという間だった。
刃を素手で潰した彼が姿が、冷たい視線が脳裏に浮かんだ。
これが人と吸血鬼の違いだろうか、それとも唯の男女の違いか。
そんな事を考えながら男達の背中を見つめていれば、廊下の角を曲がり完全に姿が見えなくなった。
その瞬間。
糸が切れたように恥ずかしさがこみ上げてきて、一気に顔に熱が集まる。
それと同時に、俯いた。
何をしてるの、私は…。
こんな事に巻き込まれないように、目立たないように、こういう姿を見せないように…__。
そう決めていたのに、どうしてこうなってしまったのだろう。
先程の自分の行動を悔やんでいると、彼から「大丈夫か?」という言葉がかかってきた。
ちょっと待って、今話しかけないでよ…っ!!
今この羞恥心を抑えるので忙しいの!
なんて心の中で叫ぶも、実際に言葉に出せる訳ではなく出てきた言葉と言えば相変わらずの冷たい言葉。
まぁ、人間世界で護身術を嗜んでいたので別に嘘ではないけれど数人の男達が襲いかかって来られたら無理である。
けれども今は、素直にありがとうと言える心の余裕はない(あっても言えないのだが…)。
何とか顔の赤みだけでも落ち着かせようと小さく深呼吸をする。
すると、何故ここにいるのかと。また問いかけてくる彼に、自分が何故ここにいるのかを思い出してハッとした。
それと同時に、先程までの羞恥心も消える。
「そうよ、私こんな所にいる時間なんてないわ。」
そう1人でに呟き、彼に先生からの頼まれ事を説明した後。
それじゃあ。と言って踵を返した。
普段より少し早めに数歩だけ歩き、ピタリと止まる。
それからくるりと彼の方を振り返り微かに赤く染めた表情でチラリと彼を見つめて一言。
「さっきも言ったけれど、別に貴方がいなくても自分で何とかしていたわ。」
でも…___。
「……助けてくれて、ありがとう。そしてごめんなさい。」
感謝の言葉の部分は、恥ずかしさのあまり少しだけ小声になってしまったが、それは許して欲しい。
彼女なりに頑張って、不器用ながらにも素直に助けてくれた事へのお礼を言ったのだ。
この件に関して、別に彼女のせいではないものの自分絡みでこうなってしまったので、最後に謝罪の言葉を添える。
それだけを言い残し、また前を向いてトコトコと先程よりも足早に職員室へと去っていった。
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