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四十四柱 ページ44




一人で行くなと喚く狐を三日月様のお相手にして、母屋に向かう。

手に持っているのは、一通りの掃除用具だ。


…果たして霊力は足りるのか。


ぼんやりとした不安を抱えつつ、頭の中では三日月様直々にお教えいただいた手入れの仕方を反芻していた。

三日月様自身は一番最後でいいからと、しばらく経った後にこちらへ来られるそうだ。

人気のない母屋に上がり、コンに教えてもらった記憶を頼りに手入部屋を目指せば、数分もせずに着く。

中に入り、早速掃除を始めた。


「掃除は最早プロの域に達しそう…」


手慣れたように掃除を終え、座布団を2組対面するように用意する。

そして、手入用の三点セットを床に置いた。

自分を落ち着けるように深く息を吐き、閉め切っていた手入部屋の戸を開けた。


…3振り、か。

やっぱり、人間の手で手入れはされたくないよなぁ。


戸の前に立っていたのは、約束を交わした乱 藤四郎様。

そして、燭台切 光忠様とにっかり 青江様だった。

名前を心の中で確認して、深く一礼する。


「お一振り様ずつ入られますか?それとも、皆さまご一緒に入られますか?」

「あ、僕は一人でいいよ」

「かしこまりました。では、乱 藤四郎様から」


彼を手入部屋へと招き入れる。

戸は、彼の手によって閉じられた。

その瞬間、ふっと空気が軽くなったような気がする。


「本当に、約束を守っちゃうなんてね…しかもこんなにはやく」

「…ご期待に添えたようで何よりです。刀身、お借りしてもよろしいでしょうか?」

「うん。…よろしくね」


鞘ごと手渡された短刀を、両手で丁寧に受け取る。

そして、ゆっくりと引き抜いた。

初めて見る刀は、酷く傷つき、今にも折れていまいそうなほどにボロボロになっていた。

刀剣男士様と刀身は連動していて、刀が傷つけば刀剣男士様の身体が傷つくらしい。

…その逆もしかり。


湧き上がる不快感を顔に出ないように抑え、拭い紙を手に取る。

そして、紙で根の方を挟むようにした。


手の平に霊力を流しながら、ゆっくりと刃先の方に…。


自分に言い聞かせながら、手の平に集中しつつ、挟んだ紙を丁寧に切っ先の方へずらして行く。

そうすれば欠けていた刃が鈍い色ながらも再生する。

ふ、と一つ息を吐いて拭い紙を置き、次は打粉を手に取った。

つう、と背中を汗が伝う感触に気づく。

どうやら、私は酷く緊張しているらしかった。

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作者名:甘夏蜜柑 | 作成日時:2019年4月10日 21時

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