この世界線で、どこかの世界線の彼女に想われる話。�� ページ29
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「赤井、それ取ってくれ」
「…これか？」
「ああ。お前の分まで削ってやるよ」
「ゼロ、俺の分はぁ？」
「…しょうがないな」
ガッ、ガッ、と自分の手の内から氷の削れる音が響く。
三つのロックグラスに手際よく削られた丸い氷を放り込んだ。
その上から琥珀色の液体が注ぐ。
音を気にせずに氷を削っていたが、ソファに寝て居る存在を思い出してわずかに反省する。
ちらりと視線を移したが、俺の不安は杞憂に終わったようで彼女はソファに深く沈み込んで居る。
寝るときはベットで寝ろと散々言ったというのに、と呆れながら毛布をかけてやった。
涼しい音を鳴らして三つのグラスの縁がぶつかる。
カランと、グラスの中で丸い氷も音を立てた。
こうして三人で飲むのは、潜入捜査の時から数えてもう何度目だろうか。
「…よく寝ているな」
ポツリと呟いたのは赤井で、翠川もそれに同調する。
俺たちの視線の先は自然と、静かに眠る彼女に向いていた。
さり気なく胸の辺りが上下しているのを確認してしまうこの動作は、もう三年…いや、四年近く続いてしまった最早癖のようなものだ。
俺たち三人の目の前で銃を自分の頭に向けて打った彼女は、奇跡的に一命を取り留めた。
しかし、脳の損傷がゼロとは言えず、記憶障害や身体不随、昏睡状態、植物状態などが懸念された。
そして懸念していた通りに植物状態になった彼女は三年以上眠り続けた。
医者には何度も諦めたほうがいいと言われたが、俺と赤井、そして翠川は決して頷かなかった。
治療費、入院費、維持費、全てを三人で出し合って彼女が生きていた痕跡を全て残した。
彼女が死のうとしたあの日、俺は一人状況を掴めぬまま彼女が鮮血を散らしながら倒れるのを見た。
心臓が凍りついたような気がした。
瞬時に、潜入捜査も組織のことも翠川のことも忘れて駆け寄った覚えがある。
あの時点での俺の中の彼女は、潜入捜査をしているの俺の唯一の癒しのようなものだった。
深くは聞かず、話には楽しそうに相槌、時には合いの手を入れてくれたり意見まで述べてくれる。
その癖、時折子どもを見守るかのような表情を俺たちに向けたり、打って変わって険しい表情や今にも泣き出しそうな表情を浮かべる。
そうだ。
俺は彼女という存在に、潜入捜査中であることも忘れていつの間にか素を見せてしまっていたのである。
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さち - おもしろいです。続きが早く読みたいです。よろしくお願いします。 (2019年5月22日 0時) (
レス) id: 43b8d3401a (このIDを非表示/違反報告)
Blanche*(プロフ) - 思わず泣いてしまった....... 続きが気になります!! 無理のない範囲で頑張って下さい!!!!!! 応援しております!!!!!! (2019年5月21日 22時) (レス) id: 5327bf9003 (このIDを非表示/違反報告)
ナシ(プロフ) - コメント失礼します！おもしろいし、感動して何度も泣いてしまいました。続き気になります！更新頑張ってください！！ (2019年5月21日 18時) (レス) id: 9c83a487c9 (このIDを非表示/違反報告)
すず(プロフ) - めっちゃ面白いです！！ほんとに！！更新楽しみにしてます！ (2019年4月4日 14時) (レス) id: cb719f86c6 (このIDを非表示/違反報告)
すず(プロフ) - 大好きで何回も何回も読み直してます！！更新待ってます！！ (2018年9月27日 7時) (レス) id: cb719f86c6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：甘夏蜜柑
| 作成日時：2018年3月24日 0時
