この世界線で、全てが終わった後の話。 ページ13
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______パチリと、目が覚めた。
ぼんやりとしていた視界は徐々にはっきりとして、一面に白を映し出した。
嗅覚が仕事をして拾ったのは、病院独特のあの匂い。
指一つ動かせないし、声も出ない。
でも、意識はしっかりしている。
先ほどまで、何をやっていたのかも鮮明だ。
…スコッチ、ライ、バーボン。
ああでも、あれは私の思い描いた夢かな。
『今自分のいる世界』が、わからなくなった。
次の瞬間、視界にひょっこりと写り込んだのは。
黒縁のサイズの合わない大きなメガネ、澄み切った青空もしくは広大な海のような色をした瞳。
赤い胸元の蝶ネクタイと、青いジャケットは間違いない。
「…ぁ、く…」
コナンくん、と言ったつもりだったが声は出なかった。
彼は私が目を開いていることに驚き、病室を飛び出して言った。
…ああきっと、スコッチを救えたと思ったのは夢だったのだ。
やはり、私なんかがまともに人を救えるわけがなかったのだ。
自身に対する失望と落胆が、視界を暗くする。
そのまま身を任せて、深く意識を沈ませた。
______パチリと、目が覚めた。
随分と体に血が巡っているように感じて、右手を持ち上げてみようとする。
しかし、思ったよりも重く、指先がピクリと震えただけだった。
「Aさん、起きた?」
気遣うような声に、瞳だけを動かしてみる。
そこには、間違えようもなく、コナンくんがいた。
彼は、私を見て少し恥ずかしそうにしながらぎこちなく手を伸ばしてきた。
頭をゆっくり撫でてくれているのだと気付いて、静かに瞠目する。
「あの、ね、その…、『よく、やったね』」
反対の手で頰をかきながら彼は言った。
それは一度だけではなくて、私に言い聞かせるように…何度も、何度も。
「Aさんは、よくやったよ。頑張ったよ。僕は…そうおもう__って、ぇ!?」
ギョッと彼が目を見開いて、それからわたわたと慌てる。
それはきっと、私がボロボロと涙を零して泣いているからだろう。
ああ、私は頑張れたのか。
きみが認めるほどに、よくやれたのか。
私は今、みっともない顔をしていることだろう。
そうわかっていても、込み上げてくる涙も笑みも抑えることはできないのだ。
「…あ、ぃがと…」
ありがとう、コナンくん。
私は、きみのその言葉をもらえただけで幸せだよ。
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さち - おもしろいです。続きが早く読みたいです。よろしくお願いします。 (2019年5月22日 0時) (レス) id: 43b8d3401a (このIDを非表示/違反報告)
Blanche*(プロフ) - 思わず泣いてしまった....... 続きが気になります!! 無理のない範囲で頑張って下さい!!!!!! 応援しております!!!!!! (2019年5月21日 22時) (レス) id: 5327bf9003 (このIDを非表示/違反報告)
ナシ(プロフ) - コメント失礼します!おもしろいし、感動して何度も泣いてしまいました。続き気になります!更新頑張ってください!! (2019年5月21日 18時) (レス) id: 9c83a487c9 (このIDを非表示/違反報告)
すず(プロフ) - めっちゃ面白いです!!ほんとに!!更新楽しみにしてます! (2019年4月4日 14時) (レス) id: cb719f86c6 (このIDを非表示/違反報告)
すず(プロフ) - 大好きで何回も何回も読み直してます!!更新待ってます!! (2018年9月27日 7時) (レス) id: cb719f86c6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:甘夏蜜柑 | 作成日時:2018年3月24日 0時