・英語が得意な清水くん ページ2
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「…この単語なんだろ」
「ん?」
「あ、いや、わかんないとこあったから…」
ついいつもの癖でぽろっとこぼれてしまった独り言。
慌てて取り消そうとするけど、清水くんには届いていたらしい。
首を傾げて不思議そうに私を見てくる。
必死に何でもないと否定をしたけれど、「どこ?」と威圧的な彼に押され負けてしまった。
あまり誰かに私のことで面倒をかけたくないのだが、渋々清水くんの手を借りることに。
「ここです…」と指をさせば、彼は軽く頷いた。
「disappointedは失望する、がっかりするって意味」
「ああ。じゃあ『I was disappointed to hear the information』って、
『私はその知らせを聞いてがっかりした』ってこと?」
「そう。失望とかとも言うけど、この場合はそれがいい」
「ありがとう」
「ん」
すらっと出てきてしまうなんてかっこいい。
よく先生は「英語は単語力だ!」とか言うけど私には単語力が一切ない。
だから清水くんのようにきちんと定着している人を見ると頑張ろうという意力が湧いてくる。
…湧いてくるだけでやりはしないけど。
私も彼を見習おう、と意気込み単語帳を探すも、あれ、見つからない。
カバンのメインのスペースにもないし、その小窓みたいなところにもない。
一応結構分厚いし堅いからすぐ見つかるはずなのに…。
「何してるの…」
「え、あ、あの…単語帳…忘れたみたい」
単語帳?とまた首をかしげると、黒目を右上に動かした。
そして「ああ…」と呟くと私に背を向けて、机の角に腕を引っ掛けて床の方に体をおる。
ジィーッとチャックの開く音を聞いて、思いついた。
もしかして、単語帳を探してくれてるのかもしれない。
その矢先に差し出されたのは、やっぱり単語帳。
「今日のお詫びにどうぞ」
「ありがとう! 清水くんはいいの?」
「ん。分かんなかったら引いてもらう。そしたら覚えるでしょ?」
「あ、たしかに」
くるっとペン回しをして、さっさと問題に向きなおってしまった。
清水くんはやっぱり優しいんだとほっこりしていると、裏表紙に見えた「8番 小川A」の文字。
…あれ、清水じゃなくて小川? しかも出席番号まで一致してるんだけど?
急いで清水くんへ視線を戻すと、苦笑いを浮かべていて。
ああ、どうりで私が持っていないわけだった。と私も理解をした。
「ごめんね」
「カッコつけちゃって」
「バレないと思ったんだけど」
「それはだめでしょ!」
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作者名:はんそで | 作者ホームページ:
作成日時:2019年6月10日 2時