陸 加筆 ページ7
風と木の葉が歌う
私は足元の踏石にちょんと揃えられたつっかけで庭に出た
2回ほど折り返した裾と、動くのに問題ないよと見せるだけが目的のつもりが
歩に合わせてザクザクと響く一面の砂利が楽しくて。
不格好だろうがその場でくるりと回ってみたり
気分は西洋の舞踏会で主役にでもなったかのような あくまでも気分だけどね！
豪華な朝露のシャンデリアに、また少し増えたエンジンのオーケストラ
砂利たちは相変わらず拍手を湛えて見守っている
『斉藤さん足長いって言われません？
身長差は10�僂半�しくらいなのに、それ以上に折り返してるような』
勢いに体を滑らせたまま、片足ずつ浮かせて眺めてみる
木の葉と一緒にアフロを揺らしていた彼は、私の言葉にぽふぽふと髪を持ち上げて答えた
『…アフロで身長以上に見られるから、相対的に足はそうでもない と』
正解と満足そうに親指を立てて見せる
案外…当然だけど双方が会話しようとさえ思えばそりゃ伝わることだってあるよね
ジェスチャーだって立派なコミュニケーションだもの。
彼の境遇は無口がきっかけではあるけど、今となっては偏見のほうが深刻な原因なのか
ふむ、と頷いて似た頭を2,3思い浮かべながらもう一つ、今までで一番大きく回った
遠くから足音が近づいた
歩くよりは早い、けれど走ってはいないくらいの速度が、襖の前で気配とともに止まる
「すみませーん山崎ですー！入っても大丈夫ですか？」
この部屋へのお客人だったか。心なしか誰かの緊張が伝わってくるような
息をのむ橙に少し笑いかけて、部屋に戻りながら私はどうぞ、と大きめの声で答える
初め少しずつぎこちなく開かれた襖はやがて諦めたように動きを止めた後、もう一度
今度は滑らかに部屋と廊下とを隔てる仕事を手放した
二度目まして、クマの染み付いた三白眼。
『・・・？』
想定と違う位置に移動して不思議がる視線には気づかず
旅館の仲居さんがそうするように低い位置で添えられた手を襖から放すと
彼は傍に置かれた木製のトレーを引き寄せる
「お腹空いてるんじゃないかと思って、軽めの朝ごはん！持ってきたんです」
混乱渦中の自分では思い至らなかった必需品
あぁ聞こえる！計らずも軽めの運動を済ませた体の叫びが！！
我慢は体に毒、だって、全くその通りだとも食事は大事！！君が正しい！
人懐こそうに細められた両目から伝わる親切は、
どうやら待ち望んだ光景に出会ったらしい体をぐうと鳴らすのに十分だった
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作者名：麻外谷 | 作成日時：2018年1月22日 23時
