君がくれた夏 (yb×in) (ページ3)

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それからは、この教室に入り浸ることが多くなった。
十中八九薮が居たし、居なくても後からやってくることがほとんど。

会話をするのは最初の数分で、それ以降はそれぞれ好きなことをして過ごしていた。

俺は大体昼寝をしていたけれど
薮はずっと、窓の外を眺めていた。

いつから使い始めたのかも分からない古びたサッカーボールを持って、寂しげに校庭を見ていた。

その時の薮の横顔は、見ているだけで胸が痛くなった。

横顔と、校庭と、サッカーボールと。
それらが何を意味しているかなんて聞けるほどの勇気を俺は持ち合わせていなかった。

「やぶ、」

「ん…？」

今まで寂しそうな顔してたくせに。
俺が呼びかけると必ず優しい顔をして返事をしてくれる。

「サッカー、すき？」

「……うん」

少しの間の後に、消え入りそうな小さな声。
柔らかな笑みを浮かべたまま、薮はポンとボールを俺に投げた。

両手でキャッチしたそれは、印刷されたロゴが見えないくらいに使い込まれていて。
何故だか急に愛おしくなって、優しく胸に抱いた。

「はは、古いから汚れるぞ？」

「……そんなことない」

確かにそれは相当古くて汚れていたけれど、きちんと手入れされていた。
俺の知らない薮の過去は、きっとこのボールに詰まってる。

「いつまでそうしてんの」

「……っ、」

薮の声と共にボールが俺の腕から離れる。
顔を見上げると、あの時のように眉を下げて笑っていた。

時折見せるその表情の意味を、俺は理解することが出来ない。

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