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何故あの日、普段は滅多に行かない北校舎を歩いていたのか。
あれから何度も考えていたけどそれらしい答えは見つからなくて。


後にその事を薮に伝えた時、彼は運命かもしれないなと言って笑った。







***





『……あれ、』



そう、本当にたまたま入った教室。
なにかと話題の彼は、ぼーっと窓から校庭を眺めていた。


窓から吹き込む風に揺れる前髪と、目を見張るほどに整った横顔。

いつも上がっていた口角はきゅ、と引き締まり、外を見つめる瞳ははるか遠くを捉えていて。


なんと言い表せばいいのだろうか。

そう、まるで、息を吹きかけたら消えてしまいそうな。



『いのお、くん…?』



いつの間にかこっちを向いていた彼は、困ったように笑った。


初めて名前を呼ばれたかもしれない。
だいちゃんとずっと一緒にいた俺は、彼に話しかけたことなんてなかったから。

だから、と言っていいのだろうか
俺は上手く反応できなくて、動けなかった。



『どうした?大丈夫?』

『うぇ……っ!』

『なあに、その声』



微動だにしない俺を不審に思ったのか、顔を覗きこまれて、変な声が出る。
そんな俺を見て笑う彼は、想像していたよりずっと親しみやすい普通の男の子だった。



『……だって、急に覗き込むから』




ばくばくとなる心臓は、そう、急にのぞき込まれたせい。
それ以外の何物でもないはずなのだ。


だからそれはまだ、恋と名前をつけるにはあまりにも不安定なものだった。



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作者名:ナポリ | 作者ホームページ:http  
作成日時:2018年7月21日 2時

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