第９４話 ページ5
そうして並ぶこと数十分、列が前に進むごとにキド姉とシンタローの緊張が高まっていくのを肌で感じる。なんだかこっちまで緊張してしまいそうな雰囲気だ。
自分「…やっぱり無理に来ない方が良かったかな？」
思わず隣にいた凛と果梨に小声で話しかけると
凛「私は初めから反対だったわよ」
果梨「ここまで緊張しちゃうとねぇ」
凛は少し不機嫌そうに、果梨は苦笑いで答えてくれた。その返事に改めて後悔が募る。困ったなと思いつつキド姉の方を見ると修哉兄が必死に盛り上げていた。が、努力も虚しくさらにキド姉の顔が蒼白になる。しかもその後ポロっと何かを言ってしまったようだ。キド姉が修哉兄を殴った。うわ、修哉兄大丈夫かな？何言ったんだろ？と修哉兄に目を奪われ、ふとキド姉に視線を戻した時、
キド姉はそこには居なかった。
カノ「キド！え、そんな…」
自分「えっキド姉？」
私と修哉兄がほぼ同時に叫ぶ。その声で私がみていた事に気づいた修哉兄がごちゃごちゃした列をかき分けてこちらへ近づく。
カノ「A、キド見えてる？」
自分「ご、ごめん。私も見えてない」
カノ「キリ達は？」
凛「見えてない。キド消えたのね？」
果梨「ごめんなさい。見えてないよ」
珍しく焦った様子の修哉兄が聞いてきた。周りに人がいるのに名前で呼んでくるのがいい証拠だ。凛の言葉に頷き、チッと小さく舌打ちをしている。その様子に人にもまれて少し遠くにいたみんなもこちらに集まってきた。
セト「キドが消えちゃったんすね？」
モモ「この人混みならすぐ人にぶつかって能力が解けそうな気もしますけど」
アヤノ「どうだろ。つぼみは隠れるのうまいからな〜。でも、つぼみに悪いことしちゃったかな…」
シン「別にアヤノが悪いわけじゃねぇよ」
貴音「そうだよ！アヤノちゃんよりなんか言ったカノ君がっ…あっごめん」
カノ「いいよ。その通りだ、僕が悪い。だから、探してくる。
…僕が必ず見つけるって約束したんだ」
最後に呟いた一言は隣にいた私にしか聞こえないような小声で、でも一番思いを込めて言っているような声音だった。修哉兄はそう言ってすぐに駆け出して行ってしまった。人が多い中、するすると走っていく。すぐに見えなくなった後ろ姿が消えた方向を見ながら、みんな心配と申し訳なさが混ざったような顔を見合わせた。
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作者名：莉々 | 作成日時：2017年6月18日 18時
