今までも、これからも。〜yb*in*hk〜

難しいことは言ってないはずだった。 ページ44

Kota side.


10年前。
弟が出来て、すぐ。


「あちぃ･･･」


寝苦しくなってきた、夏の始まり。
水でも飲んで寝直そうと、キッチンへ向かう。


「･･･けほ、げほ･･･っ、はあ、っ」


ソファの影でひとり膝を抱える慧がいた。


「･･･慧？」


びくっと、顔を上げた慧は後ずさる。


「･･･や、ぁ･･･ごめ･･･さい、
起こしちゃ、･･･げほっ、けほ･･･」



慧の背中に手を置くと、震えていた。
･･･お前は、慧は。
俺の後ろに、誰を見てた？



「なんで謝んの、
苦しかっただろ？気付かなくてごめんな」


･･･俺は、普通に育ったという自覚がある。


「ち、が･･･大丈夫、だ･･･から、
もう、けほっ･･･、おさま･･･うるさくて、ごめんなさ、･･･っ」


家に帰れば、家族がいて。
疲れて帰っても、母親の食事が待ってて。
休みの日は、父親があちこち連れてってくれた。
･･･具合が悪ければ、看病してくれた。



それを知らずに、育っていくなんて。


「･･･ごめんじゃなくて、苦しいって、
周りに言っていいの、言っていいんだよ、慧」


「で･･･も、おれが、わるい、から･･･
またか、って、うるさいって、言われ、」


苦しさではなく、うるさいと怒られないように、
ひとり膝を抱えて鎮めていた慧に。


たぶん、俺は、ショックだった。


怖がらせないように、
ゆっくり、そっと抱き締めた。


「こー、た、？」


「俺さ･･･頑張るけどさ、
たぶん気付けないときもあると思うんだ？」


「けほ･･･ん、うん、？」


「だからさ、ちゃんと、教えて？

我慢しないで、隠さないで。
慧のこと、ちゃんと俺に教えて？」


このままじゃ、慧がひとりで壊れてしまう、気がした。



「･･･慧はさ、光が苦しいって言ったら怒るの？」


「おこらない･･･」


「光は慧が苦しいって言ったら怒る？」



「･･･しんぱいさせちゃう、から、言わない･･･」



･･･慧は、”家族”を、知らない。



「ねえ、慧。
光も、･･･俺も。
兄弟で、家族なの」


「かぞく･･･」


「家族にはね、素直になっていいの。
隠さなくていい、心配だってさせていいんだよ？」



･･･まだ分からなくていい。
絶対に分からせるから。



「慧の気持ち、俺にちゃんと教えて？」

その問題、俺の問題。→←本当はこんなはずじゃないんだって

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