囚われのうさぎ 3

107 ページ7

周りが心を弾ませながら部屋に戻っていくのを少し離れた場所からじっと見つめた。

明日から始まるホリデーの話で室内は大賑わい。

中には実家に帰るのが億劫だと嘆いてる人も居るけれど、その声はとてもじゃないが嫌そうには感じなかった。

照れ隠しで言ってしまったのだろう。


「いいなぁ」


羨望の眼差しが隠せない。

だって、私は今年も家に帰れないんだもん。

優しさの欠片もない学園長を何度も告訴したが全員に"仕方無い"と返された。

あのトレイン先生ですら、私の味方をしてはくれなかったのだ。

何が悲しくて学校で年を越さなければならないのだろうか。

「あれ、リドル君はまだ来てないのかな」

辺りを見渡してみてもそれらしい陰は見つからない。

ただの杞憂に過ぎなくても、お喋りする事で気が紛れるならそうしたい。

教室で見た彼はとても曇った表情をさせていたから。

きっと色々考え込んでいるのだろうと思った。

その心を少しでも軽く出来たら、と。


「先輩、こんにちは」


わらわらと私を呼ぶ声。
脳が判断するよりも先に体が反応する。

振り向けば、其処に居たのはやっぱりユウ君達だった。

「お見送り？」
「学園長にオレ様のご馳走はどうなるのか聞きにきたんだゾ！」
「それは一大事だね」

食べ盛りな年頃である事を抜いても、グリム君が少量のご飯で満足する筈が無い。

ホリデー期間中は食堂も購買も閉まってるので自力調達だとひたすら食費が嵩んでしまう。


「去年は先生達の所でお世話になったけど、今年はどうなってるか私も聞いてなかった」
「そういえば、A先輩もホリデーは帰らないって言ってましたよね」
「正確に言うと 帰れない んだけどね」


私の返答に小首を傾げるスペード君。

感情がそのまま顔に出ちゃうところが彼らしくて面白い。

「何で帰れないんすか？」
「それは私も知りたいかな」

どんなに問い質しても体よくはぐらかされ、結局その理由を教えてはもらえなかった。

お父さんは兎も角、お母さんまで学園長と帰っておいでと言う始末。

穏やかな帰省を願う子供の気持ちは何処(いずこ)へ。


「もっかい学園長に抗議してみれば？」
「何回も言ったけどだめだったもん」
「約束守らないヤツの言うことなんて聞きたくねーんだゾ」
「グリム君もっと言って良いよ！」


この前のマジフト大会でぞんざいな対応を受けた事、今でも怒っているらしい。

結局試合は出来たけれど、それはもう結果論に過ぎないもんね。

108→←106

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す