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「お二人は館内を回らないんですか」
「本当に写真を返すまで、見張ります」


ユウ君の返しにこっくり頷けば、疑り深いと言われてしまった。

純粋に心配なだけなんだけどな。


「…昔の写真を全て消去すれば、馬鹿にされていた過去も消えるような気がしていたんです」


ぽつりぽつりと話し始めたアーシェングロット君。

気持ちが痛いくらいに分かるからこそ、いま彼を一人にするのは得策じゃないと思った。


誰だって思い出したくない過去の一つや二つ、あるもの。


「海の魔女のようになりたいと言いながら、過去の自分を認められず、否定し続けていた」


淡々と話す彼があまりに寂しそうで思わず手が伸びかけた。

どうしようもない気持ちを昇華する為の行動だったのだろうけれど、そのやり方が良くなかった。


「奪わなくたって充分凄いじゃない」
「…え?」
「そうですよ。魔法よりすごい力を持ってます」


ユウ君と顔を見合わせて微笑んだ。

言いたい事は同じらしい。


「学園長を困らせた、稀代の努力家だもの」


私も少しくらいあの人の手を焼かせてみたいよ。


「…勝手に美談にするのはやめていただけますか?」


彼はふっと笑い、ただ馬鹿にした奴らを見返してやりたかっただけだと言った。

美しいその音色に思わず聴き入ってしまいそうだった。


「向こうにでけぇ恐竜の骨みたいのが置いてあったんだゾ!」


グリム君がユウ君と私を呼ぶ。

態々言いに来てくれるなんて可愛いなぁ。

その背後から双子が来なかったらもっと穏やかな光景だっただろうなぁ。

食べられない距離を保ちつつ周りを見渡す。

トラッポラ君やスペード君、ハウル君も楽しそうな顔をしていて、何だか嬉しくなった。


「僕のツアーガイド代は高くつきますよ」


弟君からの要望を快く承諾した彼もまた穏やかな表情を浮かべている。

その姿にほっとするのも束の間、勢いよく手を引っ張られた。


「Aはオレと行こーねぇ」
「待っ、」


ぐるぐる回ったり物凄い速さでみんなとの距離を行ったり来たり。

その容赦ない動きに私の目も回りそうだった。


「フロイド!お前が教えろと言ったんだから大人しく僕の説明を聞け!」
「えー」
「私からも…お願い…」


これ以上好き勝手連れられたら吐いてしまうかも知れない。

人間としての尊厳を失いたくないのです。


「じゃあ今度一緒に泳いでくれんならいーよ」
「是非僕も参加させてください」


約束ね、の言葉が頭の遠くで鳴った。

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りん(プロフ) - ふわなさん» ありがとうございま😭劇遅亀更新野郎ですが、頑張ります!!!! (2021年11月16日 21時) (レス) id: 0e75b6d63c (このIDを非表示/違反報告)
ふわな - とっても面白い作品ですねヾ(≧▽≦*)o更新楽しみにしております! (2021年11月16日 13時) (レス) @page34 id: 7054f2498a (このIDを非表示/違反報告)
りん(プロフ) - 雪さん» ありがとうございます!!!!わかりにくかったかなーと思ってたので、嫉妬してるところ伝わって嬉しいです😂 (2021年11月13日 20時) (レス) id: 0e75b6d63c (このIDを非表示/違反報告)
- 更新楽しみに待ってます(●´▽`●)リドルくんの嫉妬とか可愛いです(●´▽`●) (2021年11月12日 22時) (レス) id: ed2686deb5 (このIDを非表示/違反報告)
りん(プロフ) - 花束さん» ああああああ!お返事遅くなって申し訳ないです!ありがとうございます😭😭そう言ってもらえて凄く嬉しいです!更新、暫しお待ちを!! (2021年10月15日 21時) (レス) id: 35357c875d (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:りん | 作成日時:2021年7月15日 18時

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