砂浜 ページ21
それから次の日。朝の８時手前くらいかな。どこへ行くのかもわからないけれど、車に乗った。喜んでくれるって言ってたからいいところなんだろうけど、ちょっと緊張していた自分が居た。
車の中でも特に会話は続かず、流れている音楽に耳を傾ける、平日の朝、っていうこともあるのか、道路を走っているとランドセルを背負った子供が何人か居た。
それを見て頬が緩むと同時に、北斗も私の表情変化に気づく。「可愛いね」って北斗。子供たちのことのはずなのに、自分に言われてるみたいだった。
「もうすぐ着くからね」
『うん』
「目的地分かっちゃったかな？」
『え、いや、全然わかんない！』
「ほんと！左見てみ」
『左？』
「そっち右」
『………。』
左には、大きな青い海。綺麗な砂浜だった。
車越しでもわかる、11月とは思えないほどの日差しの強さ。風が吹いて寒いのは相変わらずだけど。
『砂浜？』
「うん。綺麗でしょ？誰もいなくて」
『めっちゃ綺麗…』
北斗と見る空。6年ぶりのような、あの空の高さ。雲一つなくて真っ青な空。
写真も撮りたくなるけど、そんなこと忘れてしまうくらいだ。
車を停めて、北斗にお礼を言って降りる。
ちょっと走ると風が吹いて、少し肌寒い。でも、北斗の私服の上着を借りたからちょうど良い。
カップルでも無いのに、距離が近い。二人とも分厚い上着を着ているからか、腕が触れ合っている状態。
「これを見て欲しかった。」
『ありがとう、連れてきてくれて』
「喜んでもらえてよかった。」
寄り添って歩いた誰もいない砂浜。
空の遠さの懐かしさと、海の綺麗さとで感情がごちゃごちゃになっちゃって何故か涙が出てくる。
北斗にもバレないような、静かな涙だった。
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作者名：Ｙ | 作成日時：2022年12月5日 17時
