一郎 迷子編 ページ14
※一郎とは付き合っています。主人公は結構な方向音痴の設定です。
今日のデートは大きなショッピングモールに来ている。すぐ迷子になる私を心配して、右手は彼の左手に握られている。
「今日はいつもより人が多いね〜」
「そうだな、またはぐれんなよ〜？」
ニタニタと笑いながらこっちを向く一郎のほっぺを軽くつまむ。
「はぐれませんっ！」
「さっきもどっか行きそうだった奴が言うかー？」
「さっきは、……間違っただけだし」
「この前だってなぁ━━」
「聞こえませーん」
一郎のお節介がいつものように聞こえてくる。私は耳を押さえて、彼の声をシャットアウトした。
「真面目に聞けっ」
私の手は一郎によって簡単に外され、結局長い注意を聞くことになった。
「分かった分かった！次から気を付けます！」
「ったくなぁ、」
「もし私が迷っても、一郎は見つけ出してくれるでしょ？」
「……決まってるだろ」
「ならいいじゃんっ」
はぁ、と一郎のため息が聞こえてきたがそれは無視して、私はにっこりと笑顔を向けた。
「それに、こうやって手を繋いどけばはぐれることないから。離しちゃだめだよ？」
「離すわけねーだろ」
「ふふ、ありがと」
繋がった手を、さっきよりも強く握る。これなら迷子になることはないよね？
一郎は意外とお節介な所がある。でも、それは私を思ってくれての事がほとんどだ。
兄弟思いで、面倒見がいい。私の好きな人はたくさんの良いところに溢れている。こんなこと、調子にのるから本人には言えないけど。
「あああぁぁ！！！！」
「えっ！？何？」
急に大きな声を出した彼に驚きながら、隣を見ると何か思い出したように私の方を見ている。
「どうしたの…？」
「今日、俺の好きなラノベの新刊が発売するんだった」
「なんだ、そんな」
そんなこと、と言いかけて慌てて口を押さえる。これを言っちゃったら一郎を嫌な気持ちにさせてしまう。
「今から買いにいく？ここの中に売ってるといいね」
「ありがとう！」
一郎の嬉しそうな表情を見るとこっちまで嬉しくなる。よほど楽しみなのか、私の手をひいて走り出してしまった。
大きな本屋さんに辿り着くと、一郎は私の方を向いて急停止した。
「この本屋の中から、絶対にでないこと。分かった？」
「らじゃ！行ってらっしゃい！」
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作者名：袴田 怜 | 作成日時：2018年12月17日 1時
